10年以上前だったろうか。シベリアの特急を舞台に、数々の映画のオマージュ、どんでん返し、そして必ず織り込まれる反戦のテーマなどに果敢に挑戦しつつも、どこか一歩及ばずに脱力させてしまうさまが逆に人気を集めたカルト映画を作った某映画評論家が、秋田駅直結のシネコンをプロデュースすると聞いて、秋田に行ったことがあった。

  その際に、そのシネコン主催で、「秋田の方たちと一緒に力を合わせて盛り上げたいんですよ」という名目で秋田の映画館、映画祭のスタッフたちを集めたパーティーだったか、懇親会だったかが行われた。そこに参加した時に「あきた十文字映画祭」という名前を聞いたことが、その映画祭を知るきっかけだったと思う。ウィキペディアを調べるとそのシネコンのオープンは2004年。まだその映画評論家も存命だった頃だ。

  それ以来、いつかは行きたいと思いながら10年以上、なかなか顔を出すことができなかった「あきた十文字映画祭」。しかしひょんなことから「映画祭に行かないか」と誘いを受け、「よし、行こう!」。映画祭期間は2月17日、18日、19日の3日間。仕事の都合で今回は18日からの参加となった。

  秋田・十文字へのルートは主に、飛行機、新幹線、夜行バスなど。最初は新幹線で行こうと考えたのだが、調べてみると、早朝に東京を出発しても到着は昼過ぎ。かといって前日は仕事が入っているので、前乗りはできない。どうやら映画祭を朝から楽しむためには、夜行バスを使うしかなさそうだ。まあ、自分はけっこうどこでも寝られるタイプだし、旅行気分が高まるのでそれもいいかも。しかもバスの方が安上がりだし。

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JR東日本 奥羽本線の十文字駅

  というわけで夜11時のバスに乗り込み、翌朝7時前には横手駅に到着。寝ぼけまなこであたりを見渡すと、秋田はすっかり雪景色だ。そこから奥羽本線に乗り込み、10分ほどで十文字駅に到着する。雪景色の駅に到着する電車というのも風情がある。高倉健さんの「鉄道員(ぽっぽや)」を思い出した。まあ、あそこは北海道の富良野がロケ地だったか。

  駅の案内板によると、十文字の駅名の由来は「文化年間の初めの頃(1800年)、この駅の付近は人家が一軒もない広大な野原でした。その中を横手と湯沢を結ぶ駅路(現在の国道13号線)と、浅舞―増田を結ぶ街道が直角に交差し、増田十文字と呼ばれていました。文化14年(1817年)初めてこの「十文字」の辻に一軒の茶店が開業、以後だんだん民家が建つようになり、街道の要所として発展してきました。この地名をそのまま駅名としました」とある。

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写真左:横手市の名物は、さくらんぼ、ラーメン、白鳥/写真右:「釣りキチ三平」の作者・矢口高雄の出身地でもある

  そして駅の掲示物を見ると、このあたりはさくらんぼ、ラーメン、白鳥が有名らしい。白鳥に会えるかどうかは分からないが、このうちのどれかひとつくらいは堪能しようと決意する。さらに駅を出口方向に進むと、「釣りキチ三平」の看板が。ここ横手市は矢口高雄先生の故郷だそうで、「まんが美術館」なる施設もあるそうだ。今回は時間的に無理そうだが…。それはさておき、取りあえず今日、お世話になる旅館に荷物を置かせてもらい、ちょっぴりそこで休憩。外を見ると、雪が降ってきたようだ。余裕を持ってバスにして良かった。

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横手市の街中

  いよいよ映画祭に参戦。雪景色の中、会場を歩いて行く。今年は雪は少ないと聞いたが、それでも一面の雪景色は気持ちが引き締まる。そんなことを考えながら10分ほど歩いていると、会場となる「横手市十文字文化センター」に。入り口には地元の看板屋さんが描いたという上映作品の立て看板が飾られている。

  聞くところによると、この地域にも昭和50年代の半ば頃までは地元の映画館が3軒あって、そこのうちのひとつの映画館で看板画を描いていた職人さんが手がけているものなのだとか。まさに「あきた十文字映画祭」名物とも言うべきすばらしい看板の数々でテンションが高まる。実際に、多くの人がそこで記念撮影をする撮影スポットとしても機能していた。

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映画祭名物の看板の数々

  上映作品は1日あたり3~4作品。プログラムとしては「最新の邦画、新人監督、アジア圏映画」が3本の柱となっており、今年の上映作品は「団地」「母 ~小林多喜二の母の物語~」「歌声にのった少年」「father ~神父ゴッちゃん最後の旅~」「真白の恋」「淵に立つ」「過激派オペラ」「貌斬り KAOKIRI~戯曲「スタニスラフスキー探偵団」より~」「話す犬を、放す」「オーバー・フェンス」といった作品群。シネコンでかかる映画というよりは、ミニシアター系で、多少とがったものでもどん欲に上映する、ということを感じた。

  ゲストが来場する回は、上映前に簡単な舞台あいさつ、上映後に20分ほどのトークショーが行われるが、11プログラムのうち、ゲストが来場するのは9プログラム。この地域でなかなか観られない作品を上映するのと同時に、ゲストとの交流にも力を入れている映画祭なのだ。

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写真左:「淵に立つ」深田晃司監督/写真右:「オーバーフェンス」の山下敦弘監督

  観客は秋田県内の人を中心に、岩手県など周辺地域からも来場するのだとか。大ホールは325席収容可能とのことなので、結構大きい。「father ~神父ゴッちゃん最後の旅~」「真白の恋」を堪能したあとは、スタッフの方おすすめの「十文字ラーメン」を食べることに。この十文字ラーメンとは、魚でだしをとったスープに、かんすいを使わない細麺が入ったあっさり系のラーメン。スタッフの方が「2玉くらいならペロッといけますね」とおっしゃる言葉に従い、大盛りを注文。

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十文字ラーメン

  しばし注文を待ちながら店内を見渡していると、芸能人のサインがたくさん飾られている。きっと映画祭に来た際にゲストが立ち寄ったのだろう。なんてことを考えているとラーメンが到着。スープは非常に澄んでいて、チャーシューの油がわずかに浮かび上がるだけの透明度。そして麺もツルッとしたのどごしで、あっという間に平らげてしまった。目当てだった十文字ラーメンを制覇し、非常に満足な気持ちで会場に戻った。その後は「過激派オペラ」を鑑賞。演劇界の奇才・江本純子の初監督作品だが、“女たらし”の女演出家と女優とのラブストーリーをあっけらかんとしたエロチシズムで描き出す異色作。こんなとんがった作品がプログラムに入っているのも面白い。

  そしてこの日の上映終了後は、近くの居酒屋で行われていた懇親会に潜入。おいしい料理と映画の話で酒もすすむ。本映画祭顧問で、スクリプターの白鳥あかねさんがあいさつした言葉によると、映画祭スタッフが、友人の俳優・永島敏行さんに協力を要請。根岸吉太郎監督、脚本家の荒井晴彦氏、映画「遠雷」のスタッフ陣が中心となって映画祭をサポート。26回という今回までずっと映画祭をサポートし続けてきたという。映画ファンにとって、映画の話は最高の酒のさかなとなる。そうして秋田の夜はふけていった。

  そんなこんなで秋田を堪能した日々を振り返ってみたのだが、東京に戻って何日かたった今でも、また秋田に行きたいなぁという思いがムラムラと湧いてきているのだ。

【取材・文/壬生智裕】

「あきた十文字映画祭」公式ホームページはコチラ

2017年3月1日配信