毎回一人の映画人をゲストに迎え、あるテーマに沿って3本の邦画を厳選してご紹介していきます。

今回の映画人

明治大学大学院客員教授 氷川竜介

氷川竜介

1958年兵庫県生まれ。文化庁メディア芸術祭審査委員、毎日映画コンクール審査委員などを歴任。文化庁向けに「日本アニメーションガイド ロボットアニメ編」を執筆。最新著作として評論本『細田守の世界―希望と奇跡を生むアニメーション』(祥伝社)を今年7月に発表した。

今回のテーマ : 細田守監督

1本目

「時をかける少女[アニメ版]」

青春の「時」を映画として見事に結晶化した一作

末永く愛される青春映画です。「時を超える」というすばらしい能力を、活発な主人公が破天荒でバカバカしいことに浪費する前半に爆笑し、中盤それがとんでもない事件に転換していく恐怖に戦慄する。それが、切ない恋愛の感動へと変わる構成が見事です。細田守監督が描き続けているエンターテインメント映画のストーリー構造は、独立第1作目の本作品で、すでに確立していますね。

重要なポイントは、やはり「青春の本質」がよく描けていること。観客も高校生時代へとタイムリープして若返った感じになれるんです。あのころは、エネルギッシュな万能感が身体中みなぎっていたなあとか。その一方で思慮が充分に足りなくて、いま考えるとバカバカしいことに時間を浪費していたなあとか。でも、気持ちや想いだけは一途で一所懸命だったよなあとか。こうした記憶が、アニメーションの誇張された動きや表情、演技を通じて次々と触発されるのが気持ちいいです。

そしてこのキラキラした青春のイメージが、大転換する驚きの感覚もすばらしい。未成熟・未経験だからこそ、生まれる不安や後悔などの気持ちの貴重さ。これが「初恋」という、人生でこの季節にしかないものへと、ドラマチックに結晶化していく。

特に「時間」というアイテムをたくみにあやつって、「恋愛」や「死」という映画的にも重要なモチーフを浮き彫りにする手際の良さは、映画ファンなら必見だと思います。

原作はSF作家・筒井康隆による同題の小説で、おそらく日本最多の映像化作品。大林宣彦監督、原田知世主演の映画『時をかける少女』が、1980年代のアニメクリエイターたちに大きな影響をあたえた歴史もあります。その文脈をふまえると、細田守監督が初のアニメ化に際して大林版の続編にも見えるオリジナル作品として本作をどう描いたか、そこにも大きな「時の連鎖」が見いだせます。

作品も観客も、主人公といっしょに「時をかける」という点で希有な映画だと思います。

2本目

「サマーウォーズ」

要素を大盛りにした娯楽アクション映画

アニメには珍しく「大家族」を中心に描いた映画です。細田守監督の「真夏」というビジュアルイメージを決定づけた作品でもあります。コメディありアクションありサスペンスあり、とても欲張りな娯楽作で、次に何が起きるか分からないドキドキ感が魅力的。信州上田の「ご親戚」が、自己増殖する人工知能の起こした世界の危機に立ち向かうという、設定のギャップも楽しいです。

大勢のキャラクターたちが入れ替わり立ち替わり登場し、その個性を見ているだけでも引きこまれるものがあります。年齢も上は90歳のおばあちゃんから下は乳幼児までと多彩で、ネット空間「仮想都市OZ」ではアバターというゲーム的な別キャラが活動するため、ダブルな構造になっている。群衆シーンも多くて、全体に動いて動いて動きまくる「お祭り感覚」のにぎやかさが特徴です。

単なるセリフや表情変化だけでなく、行動中心で見せようとしているところがアクション映画としてすぐれた点です。悪役ラブマシーンのターゲットが、交通や水道など生活の基礎となるインフラストラクチャーという点も見逃せません。人の根幹を支える公共物を、目に見えないところから破壊する。だからこそ「敵」となる。その危機に立ち向かえるのが「人と人のネットワーク」という公共社会を意識した視点は、いまの時代にとても必要とされるものではないでしょうか。

最新作『バケモノの子』もそうですが、細田守監督の娯楽作品には「とにかく大盛りで」というイメージがつきまといます。要素を入れられるかぎり、ギチギチに詰めこんでいる。その一方で個々の映像づくりには細心の注意をはらっていて、画面の構図や小道具の配置にまで深い意味をもたせています。人情の機微とミッシリした密度感とのコントラストから、鮮やかな感動が伝わってくる仕掛けなんですね。その「繊細な大盛り感覚」を、ぜひとも楽しんでほしいです。

3本目

「おおかみこどもの雨と雪」

「成長」を通じて観客の心を映し出した一作

テーマが「子育て」だと聞いたときには、心底驚きました。アニメは現実離れしたものを記号化して誇張するのが得意ですから、真逆にあたる「当たり前すぎること」を描くのは難しいわけです。一方で、「母と子」には世代や国境を越えて誰にでも伝わる「究極の普遍性」がある。これはどう処理するのかな、という期待と不安がありました。

完成作品にはそんな下世話な気持ちをぶっちぎる感動があり、伝えるべきものを伝えたいという堂々としたブレのない姿勢で、細田守監督の新たな一面を見た思いがしました。

一方でアニメーションならではのメリットも存分に応用して、見せるべきことを凝縮して確実に描いているのも、すごい点です。たとえばこどもが「おおかみ」に変身する描写も、気持ち悪くならないよう工夫している。幼児の時代は愛らしくも見えるし、いたずらには困る。雪原を疾走するシーンは気持ちいいし、成長すれば野獣の恐ろしさや、自然との関わりも見せるようになる。

ハッと気がつくと、そのプロセスに「人」と「獣」とで大きな違いはないんです。これをうまくアニメの世界に置き換えることで、「オトナになっていくこと」という本質が、ストレートに心の奥深くまで伝わるようにできている。そこに「アニメだけが描ける物語」の大きな可能性を見せてもらいました。

もうひとつこの作品がすごいのは、大事なパーツだけを高密度に編みあげている強さです。その結果、鏡のように観客自身の「心」を映し出すことになった。「恋愛・結婚・出産」という人生の重要事を「どうとらえているか」が、この映画を語るときに丸見えになってしまうんです。自分のことは案外自分でも分かってない部分が多いので、僕自身もビックリしましたし、その点で賛否両論になったのも当然でしょう。人生観にも影響をあたえかねないレベルということですから、「アニメ映画は、ついにすごいところにまで来てしまったな」というのが実感です。
(文/氷川竜介)

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