毎回一人の映画人をゲストに迎え、あるテーマに沿って3本の邦画を厳選してご紹介していきます。

今回の映画人

脚本家・演出家・映画監督 三浦大輔

三浦大輔

脚本家・演出家・映画監督。1975年北海道出身。1996年早稲田大学演劇倶楽部を母体に演劇ユニット「ポツドール」を結成。以降、全本公演の脚本・演出を務める。2006年舞台『愛の渦』で第50回岸田國士戯曲賞受賞。2010年映画『ボーイズ・オン・ザ・ラン』で商業映画監督デビューを飾り、今年映画監督3作目として直木賞作家・朝井リョウ原作『何者』が公開となる。

今回のテーマ : 三浦大輔

1本目

『ボーイズ・オン・ザ・ラン』

演劇とは違う“映画的表現”に無我夢中で取り組んだ商業映画監督デビュー作

花沢健吾さんの原作漫画は読んだことがなく、この映画化の話が来てから初めて手にしました。人のダークサイドな面の切り取り方が、僕の演出する(ポツドールの)舞台と重なるところがあり、それで初監督の依頼があったのでしょう。いかに演劇でやってきたことを“映画的な表現”に置き換えられるか……そのことは考えましたが、やはり明確に表現方法は違っていて、結果、とにかく無我夢中でやった作品でしたね。

主人公の素人童貞、どこまでも真っ直ぐで不器用な田西(峯田和伸)をはじめ、彼をさんざん振り回すヒロインのちはる(黒川芽以)、ヒール役の青山(松田龍平)……花沢さんが創りだした登場人物を自分なりに理解し、どう描くかが勝負でした。峯田さんの本業はミュージシャンですが、役者としても魅力的で、また彼自身、田西というキャラクターには思い入れがあって、どんどん肉付けしてくれまして、それは大変ありがたかった。シーンに応じて、太ったり、モヒカンになったり、走り込んだり、ボクシングの練習をしたりと、僕が言わなくてもいろいろ自主的にやってくれたんです。のちに峯田くんには、『母に欲(ほっ)す』(14)という舞台にも出てもらいました。

青山役の松田龍平さんは、オファーしておいてなんですが、このとき「よく出演してくれたなあ」って(笑)。イヤな奴なんですよ、青山って。田西のライバル会社にいて能力が高く、女性にもモテる。でも花沢さんは原作で、典型的な敵役には描いていない。なので人間味を保ちつつナチュラルにヒール役を演じられる人がよかったんです。ヒロインのちはる役の黒川芽以さんはオーディションで選んだのですが、ちょっと小悪魔的な雰囲気に“ちはるっぽさ”を感じてキャスティングしました。リハーサルのときから追い込む演出で、彼女はキツかったでしょうけれど最後まで頑張ってくれました。他にも小林薫さん、リリー・フランキーさん、でんでんさん、YOUさん……など豪華な布陣になったのは、まあ初監督へのご祝儀みたいなことですかね(笑)。

田西の、どうしようもない負の部分も含め、30歳目前になって“スタートライン”に立つ男の青春映画です。その真っ直ぐすぎる感情を、ストレートに描くというのは舞台では自分がやってこなかったことで。けっこう新しい感覚を味わえました。すべては峯田くんの佇まい、存在感に凝縮されていて、彼が書き下ろした渾身の主題歌「ボーイズ・オン・ザ・ラン」も心に刺さる作品になっていると思います。

2本目

『恋の渦』

ゲスの極みな原作舞台劇を大根仁監督独特のポップさで包んだエンターテインメント作品

大根仁さんとの付き合いは長く、かれこれ10年以上になりますか。けっこう初期からポツドールの舞台を観てくれていたんですが、かつてフジテレビで『劇団演技者。』(04~06)という、演劇の戯曲をドラマ化する深夜番組がありまして。そこで僕の『激情』(04)と『男の夢』(02)をとりあげ、演出してくれたんですね。で、僕は時々、大根さんが携わる番組の脚本に関わるようになり、『30minutes鬼』(05)の中の1話分(#11「ヒカル」)や『週刊真木よう子』(08)の第1話(「ねぎぼうず」)を手掛けました。

『恋の渦』は初演が06年で、その頃から大根さんは映像化への意欲を示してくれて、僕も「いいですよ」と答えていたんですけれども、なかなか機会が得られなかったようで。そのうちに『モテキ』(11)の映画化で大根さんが大ヒットを飛ばし、次回作が“シネマ☆インパクト”の1本になった。ワークショップに参加した受講生たちと低予算で作品をつくる企画で、ちょうどいい題材だと思われたんでしょうね。改めて『恋の渦』を撮りたいという話があり、完成へと至ったんです。

僕はテレビのバラエティ番組が好きで、『恋の渦』の台本を書いていた頃は恋愛観察バラエティ物の『あいのり』(99〜09)が流行っていたんですよね。それに触発されつつ、プライベートでの自分の経験を盛り込み、あと、稽古のとき、役者たちが考えてくれたセリフも取り入れて生々しい“恋愛あるある”のような芝居にしました。それまでドキュメンタリー系のバラエティ作品はよくありましたが、舞台でゲスい“恋愛あるある”を描き、しかも微に入り細を穿つようなスタイルは珍しかったみたいで。そういうアプローチを深刻に受け止めるのではなく、「ああ~、わかるわかる」と笑ってしまうような共通認識がまだ一般的にそれほど広がっていなかったので、新鮮だと捉えられたというのがあります。

ベクトル的に、大根さんと僕の嗜好は近いんですが、むろん違うところもあって、大根さんは振り切った人間描写で、ポップにわかりやすく、エンターテインメントに仕立てて提示する。僕のほうは、どっちつかずな感じの曖昧なキャラクターを出し、善だか悪だかハッキリ分けられない微妙なラインで描くことが多い。その方法論の差は、作品を届ける観客数の違いに表れていて、大根さんのほうが圧倒的に多いです。『恋の渦』も、台本を書いた時期とのタイムラグがあったので、映画化はどうかなあ……と若干心配したのですが、今の時流に合うようにアップデートしてくれて、まったくの僕の杞憂に終わりました。

3本目

『愛の渦』

『愛の渦』

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舞台版とは違う“ボーイ・ミーツ・ガール”の物語に仕立てた監督第2作

『愛の渦』は初演が05年、再演が09年で、本作のプロデューサーが舞台を 観てくださって、「映画化しませんか?」と声をかけてくれたんです。「セックスをしたい」という目的のためだけにマンションの一室に集まった“男女の乱交パーティー”を描いた作品なので、まずキャスティングが難航しました。

主役とも言えるニートの「男1」と女子大生の「女1」を誰にするか……「男1」に池松壮亮くんを指名したのは僕です。いくつかの作品を観て、「この人はすごいな」と思っていたので。題材も題材ですから、ほとんどダメもとでオファーしたんですけれども、快く引き受け、期待通りの演技を見せてくれました。

女性陣は全員オーディションで選び、「女1」の門脇麦さんは一次審査でただひとり残ったんですね。ただし、彼女には注文したことがあって、それは根本的なところで性に対して、ちょっと逃げ腰だった。僕は「怖がって逃げるのではなく、ちゃんと向き合って演技をしてほしい」というようなことを言いました。これでもし、彼女がダメだったら映画化はやめようと思っていたんですが、二次審査では彼女なりに腹を決め、顔つきも変わっていて、「この子なら大丈夫!」と確信しましたね。実際、撮影現場でカメラの前に立つと、さらに演技も表情もよくなるんですよ。女優として大物です。

この二人の“ボーイ・ミーツ・ガール”の物語になっているのが、舞台とは変えた点ですね。舞台では乱交パーティーの参加者みんなを同列に扱い、「男1」「女1」だけを主役という形には置きませんでした。演劇は人物たちの状況、場のリアルな空気感のほうが描きやすい。映画は二人の“感情”の流れに寄り添って、互いの目線を体感してもらおうと考えたんです。なので、セックスの最中も二人の感情の動きを丁寧に追いました。こういう題材ですから観る方々は、扇情的な描写を期待するとは思うんですけど、セックスという行為は映しても、あえてエロく見えないよう撮ろうとしました。つまり、湿っぽい映画にするつもりはなくて、この題材だからこそエンターテインメントに仕上げ、女性も含めた広い観客層に受け入れられたい、という気持ちがありました。

2本目の監督作で少しは慣れたような気はしますが、大変さは変わりませんでした。乱交セックスしている様子を天井から狙い、ベッドの並ぶ部屋をグルグルと回る撮影をしたシーンを、俳優さんたちは“愛の渦カット”と呼んでいたそうです(笑)。現場でふと思いついたんですけど、そういう裁量、瞬発力が映画監督には常に求められる。あと映画は、僕が舞台でやっていた「ドキュメンタリー的な覗き見感覚」を貫くには難しいことがよくわかりました。なぜなら、カメラ位置に意味やある作為が生まれてしまうので。今後もずーっと、映画に関わっていくか固まってはいないですが、「これができるから映画をやっている」という“自分の視点”を早く見つけたいなと思っています。
(取材・文/轟 夕起夫)

2016年1月22日 配信