映画史・時代劇研究家の春日太一。落語やアニメに造詣が深く大学講師も務める学者芸人・サンキュータツオ。宮崎駿作品の監督助手から数々の作品を手掛ける気鋭のアニメーション監督・宮地昌幸。プライベートでも親交の深い3人が、大好きな映画を語り尽くす! 3人のディープでマニアックな偏愛っぷりをどうぞご覧あれ!

今回のテーマ

櫻の園《前編》

『櫻の園』

ある名門女子高校演劇部員たちの、上演直前のデリケートな心の動きを描く学園群像ドラマの傑作。3年生の志水(中島ひろ子)、杉山(つみきみほ)、倉田(白島靖代)は伝統の演目「櫻の園」の上演を間近に、それぞれ複雑な思いを抱えていた。

はじめに―

春日:なぜこの3人で鼎談をすることになったかというと、「シネマガ」というスマートフォンアプリのために、日本映画衛星放送さんでその月放送する番組について私と誰かで語ってほしいという企画を頂いたのがきっかけで。最も信頼できる二人を選んだつもりです。

宮地:僕、そんなに映画詳しくないですよ?

春日:むしろそれが有り難いというか。もう一つ思っていたのが、3人全員ともスタンスが違うじゃないですか。つまり俺は映画史研究家であり、時代劇の研究家。一方で宮地さんは完全にプロの演出家。作品のシーンやカットを演出家の目で語れる人であるというところで語ってもらえる。タツオさんの強みは何と言ってもオタク的な目とか、女の子的なミーハーな目がある。俺と宮地さんだけだとガチガチに真面目な内容になっちゃう。タツオさんから、あまり固くない目線が入ってくるといい。

タツオ:「あのひとカッコイ~」みたいな?

春日:そうそう。「あの子カワイイ」「このシーンきれい」とか。でもそれって実は映画を見る上で一番大事というか、本質的な部分ですから。

放談風景

春日:『櫻の園』は宮地さんセレクションです。

宮地:高校生の時、8mmフィルムで映画を撮ったりしていて。で、撮影って学校の校内でやるじゃないですか。なので学校モノっていうのを凄く(たくさん)見たんですよ。その中でも『櫻の園』ドンハマリで。当時1万4千円くらいのビデオも買ったんです。繰り返し見て、学校の構図を8mmフィルムで撮るというような・・・。

タツオ:そんな見方をしてたの!? 早くもプロっぽい! すげー。

宮地:また再度見たときはもうね、自分の作品を見ているような気分でしたよ。

春日:改めて見てみて、どこが気に入りました?過去に見たときと比べてここが良かったとか。

宮地:今回見て「ああ、そういう内容だったのか」と思ったのは、結局は3人の三角関係の物語なんだ、というところですね。

タツオ:そうそう、それ!

宮地:あとはちょっと作り手の目線もあった。今回「あ、こういう伏線があったんだ」と思ったのは、結局この(描かれている)日って、(劇中劇の)「櫻の園」をやる当日の話じゃないですか。つみきみほさん演じる杉山が前日にたばこで捕まったその翌日で、そのことが連絡網で来たことで中島ひろ子さん演じる部長の志水が髪にパーマをかけてくるんですよ。つまり、「櫻の園」の上演をしなきゃいいのに、やらない日が、この練習の日々が永遠に続けばいいのに、本番がこなければいいのにと思った心の中の犯罪者があの中に3人いて、それが杉山と志水と、そして白島靖代さん演じる倉田の3人だけが、実は「櫻の園」をやりたくなかった。『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』じゃないですけど、「永久に練習が続けばいい」という反逆者だったんじゃないかと。

春日:タツオさんはどこに注目しました?

タツオ:いやもう、全部ですね。人生で一番見てる邦画なので。昔はよく分からなかったんですが、何故か見てたんです。何なんだろうこの魅力は。見終わる度にすごく心が窮屈になるの。締めつけられちゃうんですよ。何度も何度も隔離してて、見るのが苦しいと思ってしばらく見てなかったんですけど、今回改めて見て、自分の原点を見たなと思いました。「やっぱ俺って女だったんだな」と。

春日:正直言うと俺は杉山が好きで。自分を見てるんだよね、杉山の中に。

タツオ:杉山の切なさがさ、もう泣いちゃうよね~!

春日:女の子の青春モノを見るときに一番デリケートに見るのは何かというと、相手の呼び方なんですよ。

宮地:「さん」付けで呼ぶとかですかね。

春日:そう。で、実を言うと、この空間で「さん」付けで呼び合ってるのはこの3人(杉山、志水、倉田)だけなんです。あとはみんな「ちゃん」付けとか、下の名前で呼び合ってるんですよ。この3人だけがひたすらよそよそしい。でもただ一つ違うのは、倉田と志水はタメ口なんです。「さん」付けだけどタメ口で喋る。ところが杉山ただひとりだけ、志水に対して「です・ます」調で喋ってる。これ、なぜ「です・ます」調なのかと。最初はそれだけ距離があってよそよそしいのかなとずっと思わせていたら、最初の伏線が入ってくるわけですよ。他の学校の友達に「好きな子が(演劇に)出てるんだってね~」って言われて「小間使いの役」って答える。で後に志水が小間使いの役で出てくると、あ、この子のことだったのか、と。なので、あの「です・ます」調は好きな子に対して距離を取っちゃってるっていうことだと分かる。緊張しすぎちゃって言葉が固くなってる彼女の片思い感が、実はそこで出ていた。改めて感動しちゃうのは、杉山が志水に初めてタメ口で話すんですよ、ラストに。「今日は誕生日だよね」って。

放談風景

宮地:そうなんです。これって、「櫻の園」の日でもあるんですけど、部長(志水)の誕生日というのも特別な日という要素のひとつなんですよね。

タツオ:今の話でいうと、やはり視点論になるんだろうなと思います。僕は視点の研究にも触れていたから、主人公は誰なのかということを考える。やはり、「園」なんですよ。空間、舞台そのものが主役だと。最初の視点人物は(宮澤美保演じる)城丸から入って、志水が入ってきて倉田が入って最後に杉山で抜ける、という。そして(上演を)やるのやらないので先生が職員室で泣いて訴えてるというところに、カットを変えずに複眼的にいろんな視点人物に移って。僕の一番好きなシーンが「緊張すると、なんか朝寝坊しちゃうよね」「違うでしょ、眠れなくて早起きしちゃうんでしょ」とかいうクソどうでもいい話をね、延々としてる。

宮地:あのアイスのチョイスも良いんだよね。溶けちゃうっていう感じがね。

タツオ:その視点人物が猛烈に動いて変わることによって「最後に杉山で抜けてるから杉山が主人公なの」って思う人もいるかもしれないし、「いやいや城丸が主人公として場を見てるでしょ」っていう人もいる。でも僕はやっぱりリアルタイムで見てたときは志水にものすごく感情移入してました。

宮地:多角的に見てもものすごく完成度の高い映画だからね。

※三人のトークはこの後も止まるところを知らず…。
櫻の園《後編》は3/27(金)にUPします。また、大激論の様子をフル音声“櫻の園 完全版”としてYouTubeにUPしちゃいます! 是非お聴き逃しなく!

【プロフィール&近況】

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春日太一

■プロフィール

1977年東京都生まれ。映画史、時代劇研究家。関係者40名超のインタビューを収めた豪華決定版「五社英雄(文藝別冊)」ほか著書多数。最新刊「役者は一日にしてならず(小学館)」、「時代劇は死なず!―京都太秦の「職人」たち(河出文庫)」が好評発売中。

近況

小川軒のレーズン・ウィッチにハマってます

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サンキュータツオ

■プロフィール

1976年東京都生まれ。漫才コンビ「米粒写経」のツッコミ担当。博識を生かした落語関係、学術論文の執筆などのほか、一橋大学の非常勤講師を務める。イラストやアニメ、映画への造詣も深く、幅広く活躍中。

近況

「渋谷らくご」という落語会をやってます。良かったら観に来てね☆

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宮地 昌幸

■プロフィール

1976年、神奈川県出身。アニメーション監督・演出家。宮崎駿監督の主催する「東小金井村塾」で演出を学び、『千と千尋の神隠し』の監督助手に抜擢される。その後、富野由悠季監督作品に携わる。近年の監督作に「亡念のザムド」、『伏 鉄砲娘の捕物帳』など。

近況

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