映画史・時代劇研究家の春日太一。落語やアニメに造詣が深く大学講師も務める学者芸人・サンキュータツオ。宮崎駿作品の監督助手から数々の作品を手掛ける気鋭のアニメーション監督・宮地昌幸。プライベートでも親交の深い3人が、大好きな映画を語り尽くす! 3人のディープでマニアックな偏愛っぷりをどうぞご覧あれ!

今回のテーマ

櫻の園《後編》

『櫻の園』

ある名門女子高校演劇部員たちの、上演直前のデリケートな心の動きを描く学園群像ドラマの傑作。3年生の志水(中島ひろ子)、杉山(つみきみほ)、倉田(白島靖代)は伝統の演目「櫻の園」の上演を間近に、それぞれ複雑な思いを抱えていた。

春日:志水を真ん中に置いて、それぞれの片思いの相手にどういう心のアプローチをとるのか、その片思いのベクトルが2つあるということで、3つの成長譚が描けるようになっている。

宮地:今の話を聞いていて思い出すのは、一番初めに「どうして今日パーマかけてきたんですか、部長?」と言われて、「目覚めたのかな」って言うんですよね。多分目覚めたかったんでしょうね。「誕生日に、新しい自分に変わりたかった」っていうせりふが抜きでポンとあって。だからあの物語は、主人公がどう成長するか、周囲にどう受け入れられるかというのが大きなテーマになっているんだなと思ったのと、あとは最後に志水と倉田がふたりで遅れてメイクをしている時に、「中止にならないから、覚悟を決めよう」って言うんですよ。それで「うん」と言って、最後にふたりで1枚写真を撮るんですけど、「中止にならないから~」というせりふ、年をとった僕に響いたのは「年をとってしまうことに対して覚悟を決めませんか?」っていう感じに聞こえるんですよね。
 加齢する、このまま止まらないということを私たち、そろそろ受け入れませんか?っていう風に聞こえたのは、彼女たちが写真を撮ろうという気持ちになっているからだと思う。この瞬間をとどめておきたい、忘れないでおきたいという気持ちに流れるには、歳を取っていく自分たちを写真に収めておきたいという大人の視点のようなものが入り込んだ気がしたんですよね。それで、あの後あのふたりは付き合ったりする展開にならない、と思えるのはその先に何か大きな、社会に出て受けていく抑圧のようなものをあのふたりは感じているような気がするんですよね。非常ボタンを押して回避したいとか、「櫻の園」というものにどうにかして抗いたいと思ってる。

放談風景1

タツオ:もう年をとりたくない、大人になりたくないから、もう大人だ!大人になるんだ!っていうことですよね。

宮地:なぜそう思ったかというと、『櫻の園』を高校生の時に見ていて、あの後にブルセラとか、女子高生商売みたいなものが逆算的に生まれてきて、ルーズソックスだ、携帯だ、それこそラブ&ポップというあの時代が来るじゃないですか。その時先駆けだったのは自分たちが商品になってしまうことから解放されたい、というような気持ちが「女子高生」というブランドみたいなものから解き放たれたいというのを先んじて感じていたのかなと。当時ブルセラとか流行る前でしたからね。

春日:せりふの中でも出てきますよね。この3人に共通するのはそういう「性」というものに対して露骨に反発しているところですよね。特に志水はせりふの中でも、胸が大きくなって女性として見られていることに凄く違和感があった、ということを言っているし、それに対して共感を示す倉田がいて。一方で杉山は完全に、見た目やたばこを吸っていることからして世の中が、特に学校側が押し付けてくる女性像というものに最初から反抗している子だから、実はこの3人に共通しているのはそこなんですよね。完全にこの年齢の女の子だし、この年齢の女としてこの先目覚めていくという自分に対する反抗をしている3人であって。この映画をあらためて面白いなと思ったのは、ファーストシーンをその3人から持ってこないで、「性」から入ったじゃないですか。そこが実はテーマを前景化させているんだなと思いましたね。

宮地:舞台監督の城丸(宮澤美保)って多分、もう大人なんですよね。初めから(年をとることを)受け入れちゃってる人なんですよ。

春日:城丸さんは卒業しちゃってるんですよ。だってキスマーク付けて出てきたりしてますからね。

宮地:変な言い方だけど、彼女は後輩なのに、もう女子高生じゃないよねっていうキャラクターになってるんです。

放談風景2

春日:だから、まだ「性」というものを受け入れられないでもがき苦しんでいる、3人の女の子というのが物語の主人公なんだけれど、すでに目覚めちゃってる子を置くことで、彼女たちをより際立たせてるし、またそれを一見主役風に置いているところがこの作品の人物構成のいやらしいところなんですよ。だから始まる時点で、この作品は明らかに「性」の話ですよって言ってるんですよ。最初のシーンの段階で。

タツオ:ひとつ思ったのは、大人の世界の象徴であるたばこというアイテムが、実は大人になりきれない少年とか少女を象徴する小道具になっているところだと思うんですよね。だから、その日覚悟を決めてきた志水はたばこを吸おうと思っても吸えないんですよ。火が付かない。だけどその日たばこをやめなかった杉山は最後にあのふたり(志水と倉田)のいちゃつきを見て、吸っちゃうんです。他校から来た子なんかもトイレで吸っちゃってるんですよ。だからたばこを吸ってるのは幼い子供なんだという描き方にしているから、やはり外側とあの空間では価値観が逆転している、ということを小道具ひとつで描いている。感動しましたね。

《トーク完全版の音源をアップ!》

お待たせいたしました! 大盛り上がり(休憩時間も話し続けるほど(笑))の櫻の園論を、《前編・後編》をあわせたフル音声でUPいたします! 下記YouTubeからお聴きください。
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※次回は4/3(金)UP、テーマは『がんばっていきまっしょい』です。お楽しみに!

【プロフィール&近況】

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春日太一

■プロフィール

1977年東京都生まれ。映画史、時代劇研究家。関係者40名超のインタビューを収めた豪華決定版「五社英雄(文藝別冊)」ほか著書多数。最新刊「役者は一日にしてならず(小学館)」、「時代劇は死なず!―京都太秦の「職人」たち(河出文庫)」が好評発売中。

近況

球春到来ですね。ベイスターズファンには苦行の始まりです。

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サンキュータツオ

■プロフィール

1976年東京都生まれ。漫才コンビ「米粒写経」のツッコミ担当。博識を生かした落語関係、学術論文の執筆などのほか、一橋大学の非常勤講師を務める。イラストやアニメ、映画への造詣も深く、幅広く活躍。定期落語会「渋谷らくご」に出演中。

近況

理想の女性は、『風の谷のナウシカ』のクシャナ殿下です。

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宮地 昌幸

■プロフィール

1976年、神奈川県出身。アニメーション監督・演出家。宮崎駿監督の主催する「東小金井村塾」で演出を学び、『千と千尋の神隠し』の監督助手に抜擢される。その後、富野由悠季監督作品に携わる。近年の監督作に「亡念のザムド」、『伏 鉄砲娘の捕物帳』など。

近況

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