映画史・時代劇研究家の春日太一。落語やアニメに造詣が深く大学講師も務める学者芸人・サンキュータツオ。宮崎駿作品の監督助手から数々の作品を手掛ける気鋭のアニメーション監督・宮地昌幸。プライベートでも親交の深い3人が、大好きな映画を語り尽くす! 3人のディープでマニアックな偏愛っぷりをどうぞご覧あれ!

今回のテーマ

がんばっていきまっしょい

がんばっていきまっしょい

1998年公開、四国・松山を舞台に、ボートに青春を懸けた女子高生たちの姿を瑞々しく描いた青春ドラマ。新人の田中麗奈が主演を務め、キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞を受賞した。監督は『解夏』『雨鱒の川』の磯村一路。

春日:こちらはタツオさんのセレクションです。

タツオ:大好きな作品なんです。一見アニメの文法のような部分がたくさんあって、『シコふんじゃった。』と同じく、いわゆる「部員を集めるモノ」で、(『シコふんじゃった。』のような)コメディ要素も入れているけれど、仲間を集める、ということをメインにしていない中で少女の成長を描いている。改めて見てとても綺麗な映画だったなと思いました。お二人の感想も聞きたいです。

宮地:公開当時も劇場に見に行っているんですが、その時すでにアニメの仕事に就いていたので、タツオさんがおっしゃる通りアニメの文法にそっくりというか、アイドル映画を作る文法にそっくりだなと感じました。

タツオ:「けいおん!」的なね。

宮地:タツオさんが選んだ理由がすごく分かるんですけど、僕が当時感じていた印象があって、それが変わってくれ、と思って再度見てみたんですけど、やはりちょっと同じような印象を持ってしまって。それがあまりポジティブな印象じゃないんですよ。

春日:それを聞きたい。言っちゃってください。

宮地:すごく題材が良いじゃないですか。『がんばれ!ベア―ズ』モノというか、『ウォーターボーイズ』でもいいし、『フラガール』までいくような、あの流れじゃないですか。
 すごく魅力的な題材なので、もし自分が作ったとしたらと置き換えて考えてしまったときに、やはり大きく足りない、というか「もっと突っ込んで!」という気持ちがすごくあるんです。作り手としての自分が中に入り込んで、もう一度一緒に青春を送りたいというくらいまで入り込んで、「あ痛たたっ」となって引いてしまうという、大林宣彦さん(の作品)みたいな、ああいうことになって良いんだと思うんですよ。前回の『櫻の園』はそういうふうになっているんですよね。

放談風景1

春日:実は僕とタツオさんが宮地さんに振りたかったことがあるんだけど、この映画って松山のド田舎を舞台にした映画じゃないですか。それで思ったのが、こういう映画って実を言うと東京出身者と地方出身者で見方が違うんじゃないかなと。つまりタツオさんとか僕のように東京のような都会で暮らしてきた人間からすると、あの空間が映像になっている段階でもはやファンタジーとして成り立っていて、そこで満足してしまっているところがあるけど、地方出身の人たちからするとあれは日常の映像で、日常の景色そのものだから、そこにもうちょっとドラマとか何かが無いと成り立たないじゃないかという気になってしまうんじゃないかなというのが、今回僕の中でひとつの軸として考えたことなんです。

タツオ:あの鍋焼きうどん屋とか良かったよね~。(都会には)無いもんね。

宮地:いや、それでも鍋焼きうどんのアップは絶対一発入れておいて欲しいんですよ。

タツオ:分かる分かる。でも風景じゃん! 風景なんですよね。

宮地:地方と東京ということで言うと、少女青春モノを作るとしたら、という企画話をするときに、ひとつだけ絶対に言うことは、地方都市にした方がいいということ。まず地方には方言があって、ロケーションも良い。逆に東京で青春モノを作るとなった瞬間に、すごく殺伐として難しくなっていっちゃう。東京って大人が働く街じゃないですか。働く街で青春モノとなると、東京観というか文明論や都市論ようなものをちゃんと知った上で作っておかないと危ないぞ、というのがあったりで。

放談風景2

タツオ:意味が1個乗っかっちゃうんですね。

宮地:僕らがそんな話をさんざんしているときに、ジブリが『耳をすませば』を作って、聖蹟桜ヶ丘をヨーロッパの丘の街に仕立て上げて作るということをやって、上手い!ということがあったんですよ。方言も何も使わない。逆に『海がきこえる』なんかは方言を使ったり。青春モノとかは尾道が、大林宣彦監督が上手いというのと同じで、地方都市の方が青春モノと親和性が高いと言うと変だけど。

春日:地方を物語の舞台に選んだ時点で、それはもうファンタジーとして描こうというひとつの意思表示で、そのファンタジー空間の中でどういう日常を展開させるか、という話なのかなこれは、という風にあらためて思いました。何かね、あのお好み焼きのシーンがすごく好きになりましたよ、今回。多分この映画がやりたいのってこれじゃないかって。女の子同士で「誰が好きなの?」みたいな話をしていたのに、「わたしこれじゃー」とお好み焼きの話になったら、「私も好き」って言ってみんなで食べちゃうっていう。それまでの恋愛話とか全部消えちゃうという、その女子感。次のカットでは誰が好きだとかそんな話も全部無いことになって次に行っちゃうっていう、絶えず感情の線が繋がらずに。でもこれって女子的な日常の気がするんですよね。

タツオ:だからね、宮地さん。僕はね、多分少女に生まれ変わりたいんだ。

宮地:なんだか隔たりを感じるな(笑)

タツオ:別に僕はブルマを味わいたい、とかじゃないんだもん。あの子たちと一緒に青春したかった、みたいなことなんですよ。
 前回『櫻の園』で好きなシーンとして「緊張してねぼうしちゃった〜」という非常にくだらないやりとりがあるって言ったじゃないですか。基本全編そうなんですよね、この『がんばっていきまっしょい』は。お好み焼き屋のシーンもそうだし、あと大会のシーン、大会の前日に宿に入って、ドキドキするっていうことを5人の大喜利にかけて展開していくっていうシーンがあるんですよ。どうドキドキを表現するか。しかも芝居も微妙に下手な感じで良いんですよ。もう、すげー萌えるんですよあそこ(笑)

《トーク完全版の音源をアップ!》

※ついに萌え談義にまで発展した放談は、この後も3人のニッチな嗜好により思いもよらない展開に・・・。気になる続きはフル音声で 下記YouTubeからお楽しみください!
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※次回は4/10(金)UP、テーマは『黒澤明PART3』です。お楽しみに!

【プロフィール&近況】

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春日太一

■プロフィール

1977年東京都生まれ。映画史、時代劇研究家。関係者40名超のインタビューを収めた豪華決定版「五社英雄(文藝別冊)」ほか著書多数。最新刊「役者は一日にしてならず(小学館)」、「時代劇は死なず!―京都太秦の「職人」たち(河出文庫)」が好評発売中。

近況

沖縄に初めて行きました。

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サンキュータツオ

■プロフィール

1976年東京都生まれ。漫才コンビ「米粒写経」のツッコミ担当。博識を生かした落語関係、学術論文の執筆などのほか、一橋大学の非常勤講師を務める。イラストやアニメ、映画への造詣も深く、幅広く活躍。定期落語会「渋谷らくご」に出演中。

近況

モロゾフのココアピーナッツがおいしいョ。

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宮地 昌幸

■プロフィール

1976年、神奈川県出身。アニメーション監督・演出家。宮崎駿監督の主催する「東小金井村塾」で演出を学び、『千と千尋の神隠し』の監督助手に抜擢される。その後、富野由悠季監督作品に携わる。近年の監督作に「亡念のザムド」、『伏 鉄砲娘の捕物帳』など。

近況

『ローリング☆ガールズ』というアニメを手伝っています。もし良かったら♪