映画史・時代劇研究家の春日太一。落語やアニメに造詣が深く大学講師も務める学者芸人・サンキュータツオ。宮崎駿作品の監督助手から数々の作品を手掛ける気鋭のアニメーション監督・宮地昌幸。プライベートでも親交の深い3人が、大好きな映画を語り尽くす! 3人のディープでマニアックな偏愛っぷりをどうぞご覧あれ!

今回のテーマ

仲代達矢
『白と黒』

『白と黒』

若き弁護士(仲代達矢)の犯した完全犯罪を、老練な検事(小林桂樹)が暴く犯罪サスペンスの逸品。堀川弘通監督の演出はもちろん、橋本忍による脚本、撮影・村井博の陰影ある画調など一流映画人たちの技術を堪能できる。仲代達矢は小林桂樹と本作で初共演。小林演じる検事と弁護士役の仲代、クライマックスの二人の対決シーンは見もの。まさに未ソフト化の隠れた傑作である。

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春日:今回は「春日セレクション」ということで、仲代達矢さん主演『白と黒』を取り上げます。これはとにかく作品を見てほしかった。僕自身、最初に見たときに驚いたんですよ。何だこれは!と。

タツオ:凄かったですよ。冒頭5分くらいでもうこれ、傑作でしょ!って思いますよね。

放談風景1

宮地:恥ずかしながら、この作品は今回初めて見たんですけど、弩級に傑作じゃないですか。これ、みんな見た方がいいし、この面白さを例えると、ポン・ジュノの『殺人の追憶』とか、デヴィッド・フィンチャーの『ゴーン・ガール』のような的確さ、あとは「ブレイキング・バッド」なんかのあの面白さやスコセッシの初期作品とか、それくらいの傑作感がある。

春日:いわゆる「知的なミステリー」と言うんですかね。

タツオまったく説明過多じゃないし。

春日:この作品、当時はほとんど評価されなかったんです。

タツオ:まじで?そうなの?

春日:あまりにも早過ぎた。全部が。

タツオ:こんなに面白いものが埋もれていたらまずいですよ!

春日:1963年は、映画もあまり見られていなかった時期でもあるんですけど、未だにほとんど語られていなくて、VHSもDVDも出ていないんです。

宮地:ええ~!これを埋もれさせたらまずいですよ。

春日:これ、ストーリーが言いにくいじゃないですか。どんでん返しモノでもあるので。そのどんでん返しになっていく凄さもあるし、その中でまた一人、二人と堕ちてゆき、誰一人幸せにならない。脚本が橋本忍ですから。彼は絶対に人を幸福にしませんから。

タツオ宮地:(笑)

宮地:脚本がまず素晴らしいじゃないですか。回想シーンの使い方の上手さ。検事が室内から出られない状況で話をしている時に回想シーンを持ってくることで静と動でシーンを動かしていくところとか。

タツオ:あのシーン、すげえ上手い。

宮地:さっきも言った、二人が出会う場所を、シチュエーション自体を演出している上手さもあるし、あと仲代さんが不倫相手とドライブするシーンで、女性の方が運転していて、この時点で弁護士の女性観を上手く出していてパーフェクト過ぎるんですよ。こんな傑作を今までなんで見なかったのだろうと思いましたよ。

春日:ミステリーのミスリードっぷりがすごいのが、最初に犯行シーンがあるじゃないですか。これは仲代さんを追い詰めていく刑事コロンボ的な話なのかなと思わせておいて、次のところで配達の人とばったり出会う。これは松本清張の「証言」とかでいう、人と会ったがためにアリバイが崩れていくという話になるパターンなんですけど、そうじゃなくてあの証言の使い方って、ネタバレになるから言いませんけど、まったく逆の使い方でくるじゃないですか。こっち!?って。ミステリーにおけるベタ的なことをやっておいてそれを全部ひっくり返していってるんですよ。

宮地:ドンデン、ドン!ときますもんね。

放談風景2

春日:最初に捕まった奴が犯人じゃないという法則、まあそれもまた言わないでおきますが、いろんなフラグと言うか、ベタなところを全部ひっくり返していて、しかも無理がないストーリーになっていて、最後に一人の男の悲劇にまでずーっと入っていって。その間に小林桂樹の検事の浮き沈みもあったりして、詰め込み方も凄い。

宮地:二人が出会う場所がラブホテルだとかバーとか、ひとつひとつがそこに絡んでいるし。逃亡者って、追う者、追われる者の疑似構造、恋愛構造みたいな部分もあるじゃないですか。それをBLと言わなくても、上手くできている。

春日:堀川弘通は徹底して緊密に作っていく人だから、その演出の中で役者の演技が誰一人突出していないんですよ。変に演じ過ぎるとか、そういうのじゃなくて、みんな役を演じていってるという感覚があって、仲代さんももの凄く抑え込んだ感じでやっているし、小林桂樹さんも日常の中の検事を演じていたし、常にその横にいる西村晃の刑事も、反発するかと思いきやちゃんと動いている。

宮地:東野英治郎さんの酔っ払いぶりが相変わらず上手いんですよね。

春日:そしてやはり井川比佐志ですよ。一番のキーは、井川比佐志という役者がここにいるということですよ。

タツオ:あの顔はすごいですよね。イイ顔してますよ。

春日:どう見たってミステリアスじゃない人じゃないですか。ミステリアスじゃない井川がここにいるから、みんな油断するんですよね。

宮地:何か、絶対爪に泥が付いてますもんね。

タツオ:(笑)

春日:あのリアルな、プロフェッショナルな泥棒の風体ですから、だからこそ「こいつ、殺してないよね」とみんな油断するんですよね。この配役も上手いし、この配役の中で演じ切った役者たちも上手い。五角形のパラメーターを作ったら全部完璧ですよ。

宮地:そうですね。パーフェクト映画に近い。

春日:初めて見たとき、本当に驚いたんですよ。

タツオ:なんで?ってね。

春日:そう。なんでこの映画が知られていないの?って。タイトルのぞんざいな感じも含めて、『白と黒』って。売る気ないじゃないですか。

タツオ宮地:(笑)

宮地:でも見てみると、白黒映画で、(立場や状況が)入れ替わっていくし、背反するものがテーマですよね。

春日:無実の人間が有罪になるとかならないとか、どっちが無実でどちらが本当にやったのかとか、人間の白い心と黒い心とか、全ての白と黒がそこにある。やはり橋本忍さんだから、すごく良いタイトル付けをしているんですよ。これは語りたい云々じゃなくて、本当に見てもらいたい。
 さっき宮地さんがおっしゃった、どんでん返しモノって言うんでしょうか。日本って意外とどんでん返しモノのような緊密なミステリーが無いじゃないですか。それが実は日本でもこんな凄いどんでん返しミステリーを作っていたんだということを、ちゃんとアピールしなければいけない。

《トーク完全版の音源をアップ!》

※今回はこの前に同じく仲代達矢主演作『野獣死すべし』についても語っています。その模様はYouTubeでの音声配信でぜひお聴きください!

※次回は4/24(金)UP、テーマは『黒澤明PART4』です。お楽しみに!

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【プロフィール&近況】

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春日太一

■プロフィール

1977年東京都生まれ。映画史、時代劇研究家。関係者40名超のインタビューを収めた豪華決定版「五社英雄(文藝別冊)」ほか著書多数。最新刊「役者は一日にしてならず(小学館)」、「時代劇は死なず!―京都太秦の「職人」たち(河出文庫)」が好評発売中。

近況

けっこう疲れています。

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サンキュータツオ

■プロフィール

1976年東京都生まれ。漫才コンビ「米粒写経」のツッコミ担当。博識を生かした落語関係、学術論文の執筆などのほか、一橋大学の非常勤講師を務める。イラストやアニメ、映画への造詣も深く、幅広く活躍。定期落語会「渋谷らくご」に出演中。

近況

昔の映画の音楽っていいよね。CD欲しい。朝日ニュース映画のBGMもステキ。DVD買っちゃった。

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宮地 昌幸

■プロフィール

1976年、神奈川県出身。アニメーション監督・演出家。宮崎駿監督の主催する「東小金井村塾」で演出を学び、『千と千尋の神隠し』の監督助手に抜擢される。その後、富野由悠季監督作品に携わる。近年の監督作に「亡念のザムド」、『伏 鉄砲娘の捕物帳』など。

近況

『終わりのセラフ』というアニメを手伝っています。見てください。