映画史・時代劇研究家の春日太一。落語やアニメに造詣が深く大学講師も務める学者芸人・サンキュータツオ。宮崎駿作品の監督助手から数々の作品を手掛ける気鋭のアニメーション監督・宮地昌幸。プライベートでも親交の深い3人が、大好きな映画を語り尽くす! 3人のディープでマニアックな偏愛っぷりをどうぞご覧あれ!

今回のテーマ

『血と砂』

『血と砂』

伊藤桂一の『悲しき戦記』を元に、岡本喜八が「ギャング同盟」の佐治乾とともに脚本を書き、自らメガホンをとった戦争映画。敗戦直前の中国大陸・北支戦線。軍楽隊の少年兵13人を率いる曹長・小杉(三船)の部隊が、中国・八路軍と砦をめぐる熾烈な戦いを繰り広げる様を描いた戦争アクション。

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春日:『血と砂』は春日セレクションです。日本映画全体を見渡してもベスト5か3に入るんじゃないかという映画です。週刊文春で「木曜邦画劇場」という連載をやっていますが、これの第1回目に選んだのがこの映画だったんです。

タツオ:岡本喜八の三船敏郎が好きなんですか?

春日:岡本喜八と三船敏郎の組み合わせはなかなか良いですよ。黒澤とはまたちょっと(コンビネーションのあり方が)違うんですよ。黒澤がやるときは、現代劇と時代劇ではまた違うんですが、時代劇の黒澤映画の場合、三船は基本的に無敵のヒーローなんです。圧倒的に強いわけです。現代劇の方ではいろいろな役をやっていますが。一方、岡本喜八の三船はダークな、暗い話が多い。多分ほぼ全作品で死んでるんじゃないかな。『赤毛』であったり『新撰組』であったりとか、三船も自分のプロダクションで映画を作ると、やたらと死ぬ。暗いのが多いんです。この『血と砂』も三船プロダクションで作った作品なんですが、すごく暗い映画ですよね。明るくコーティングはしているけど。

放談風景1

僕がこの作品を初めて見たのが、浅草東宝という劇場。浅草六区にあったんですけど、昼間は東宝のロードショーを、土曜の夜になるとオールナイト上映をしていて毎週違った特集が5本立てで組まれるので学生の頃に毎週通っていたんです。岡本喜八特集のときに有名な『独立愚連隊』なんかにまじってこの『血と砂』という地味なタイトルが入っていたんです。当時は全然知らなくて、何だろう、と思って見てみると音楽もジャズで、明るいコメディなのかなと思って始まってみると、三船や仲代達矢、伊藤雄之助や佐藤允とどんどん凄い人たちが出てくる。

序盤まではもの凄く明るく楽しい映画だと思ってからの後半の怒涛の展開で、ラストシーンでは圧倒されちゃって。5本立ての3本目で夜中の2時半くらいだったんですが頭がくらくらしてしまって、この後は他の映画は見られない!と思って映画館を出ちゃいました。

宮地:もうそれでお腹いっぱいだったんですね。

春日:もう(気持ちの高ぶりを)収めたいと思って、余韻が欲しいから他の映画は見たくないと。六区の夜風に吹かれながら始発までぼーっとしていたという記憶がある。

タツオ:学生っていつ?大学?高校?

春日:大学で二十歳前後だったと思います。本当にショックを受けた映画でしたね。日本の戦争映画としてもトップだと思っています。

タツオ:僕は最初見たときに軍楽隊がジャズを弾きながら野原を歩いてくる時点で、この映画のリアリティラインってここなんだ、とちょっと戸惑ったんですよ。そういう戸惑いとか無かったですか?

春日:岡本喜八作品だということは分かっていたので、アメリカ的なものを仕掛けとして入れてくるんだろうなということはある程度想像はついていたので。意外性はありましたよ。「えっ?」て思ったんですけど、三船が出てきてからは完全にそっちに引っ張られていったので、僕はあまり気にならなかったですね。とにかく驚いた映画で。ラストは本当にショックでしたよ。

宮地:岡本喜八の撮り方って黒澤みたいに独特な感じがあって、この映画を見たとき、「劇画的」という言葉についてもう一度考え直しちゃいました。僕はアニメも作っているので、撮り方なんかがちょっと近いんです。顔のアップだったり、カットがやたら多かったり。

春日:岡本喜八はカット数の多さでは定評がありますから。

宮地:岡本監督は時代が違ったらアニメを作っていてもおかしくない。

タツオ:アニメっぽいですよね。

宮地:そういう風に考えたときに、自分のものと近しいカッティングみたいなものを感じたりすることもあって、近親的な嫌な感じも手に入れるんです。ここはもっとカットを割らないで役者さんのお芝居をもっと長く見たいな、とか思ったりする瞬間もあったりして。そういう部分は冷静に見れなくなってしまいますね。

春日:そうか、アニメ的といえばアニメ的なのかもしれないですね。

宮地:一瞬見ると、お芝居が激しかったり、カット割りとかもどんどん激しくなっていって、爆発の火薬なんかもどんどん盛ってくるじゃないですか。そういう感じなんかも劇画っぽいと言うんだなと思います。

放談風景2

春日:最後の爆薬のシーンも凄いですよね。あそこはテレビで見るよりは劇場で見た方が迫力があると思います。あれは(楽器の)音がひとつずつ減っていってるんですよね。同時に爆撃の音が増えていくんです。何かというと、楽器の音イコール生きているという証拠なんです。音が減るイコール死ぬということ。爆撃は死の音で、それがどんどんどんどん生の世界に浸食してくるわけです。最後には(楽器の)音がひとつになって、さらにゼロになって完全な無の瞬間、死の世界になる、ということを音で表現している。音楽と爆弾の音がぶつかるのを劇場で聞いていると、劇場の空間内でその音がせめぎ合っているんですよ。これは大音量で聞いた方が絶対に面白いです。

宮地:コミック的なところもあるので、今見ても凄く面白いですよね。見やすいとも思ったし。

春日:(日本の戦争映画は)じめーっと描いていって、とにかくどれだけ泣くか、どれだけ辛く描くかというのが基本にあるわけですが、これは全く逆。

宮地:わかる。「お前たちは童貞か?」って、一人ずつ並んで大人にしてもらって、宿から走って出てくる少年兵とかがもう痛快過ぎて、楽しい。

タツオ:最初、(お春が)川から上がってお花畑でお花を摘んでいるところを見て、もうマンガか!っていうシーンで、みんな股間を固くして立てなくなるとか、もう文字で読んでいるみたいな。

宮地:あそこ楽しい。「お前たち、もう一回水の中に入ってこい!」って。

タツオ:僕は最初、戸惑ったんですよね。これは何なんだろうと。いわゆる映画という既成概念で見ると戸惑うというところがあるのかなと。一番象徴的だったのが、ヤキバを乗っ取った後に、お春さん(団令子)が来るじゃないですか。そのときみんなで歌うでしょ。いきなりミュージカルみたいになるでしょ?うわ、飛んだな~と思って。
 こんなことを良しとするというか、OKなんだこの映画はって。いわゆるリアリティ寄りの人ではなくて、割とこう、ポンチ絵というか、劇画というとアレですけど、漫画的な。

宮地:カリカチュアみたいな。

タツオ:何かこう、表現先行で映画が構成されているので、それがわかった時からちょっと気持ちよく見れるようになりましたね。でもそれが楽しさのピークで。

春日:(後半は)恐ろしい勢いで落ちていきますからね。

タツオ:そうなんですよね~。最後は鈍器で殴られるみたいな終わり方ですもん。

春日:最後までファンタジーでいくのかなと思ったら、最後に大逆転の現実が起きる。岡本喜八監督のテーマとしてあるのが、この後『日本のいちばん長い日』を撮っているんですが、そこでは8月14日の特攻隊の話をやっているんですよ。(『血と砂』と同じ)14日の夜に死んでいく少年たちの話というのがある。「戦争が長引いたがために無駄に命が消えていってしまった」という、そういうテーマが彼にはある。彼自身も元々兵隊としていろいろなことを体験して、恨みつらみを持って帰ってきた人だから、そのぶつけ先としてそういったテーマを描いている。戦争は終わっているわけですよ。でも誰もそのことを届けに行けないっていう。

宮地:なるほど。無駄に戦争を続けちゃってるということですね。

春日:本当は、『血と砂』でのヤキバの陣地は奪う必要のない場所なんですよ。状況を考えれば。本当に犬死にですよ、彼らは。

《トーク完全版の音源をアップ!》

※実は物語の主人公は三船ではなかった!春日さんイチオシの『血と砂』、トークの全貌はYouTubeの完全版音源にて。ぜひお聴きください!

次回は5/15(金)UP、テーマは『歩いても 歩いても』です。お楽しみに!

【プロフィール&近況】

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春日太一

■プロフィール

1977年東京都生まれ。映画史、時代劇研究家。関係者40名超のインタビューを収めた豪華決定版「五社英雄(文藝別冊)」ほか著書多数。最新刊「役者は一日にしてならず(小学館)」、「時代劇は死なず!―京都太秦の「職人」たち(河出文庫)」が好評発売中。

近況

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サンキュータツオ

■プロフィール

1976年東京都生まれ。漫才コンビ「米粒写経」のツッコミ担当。博識を生かした落語関係、学術論文の執筆などのほか、一橋大学の非常勤講師を務める。イラストやアニメ、映画への造詣も深く、幅広く活躍。定期落語会「渋谷らくご」に出演中。

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宮地 昌幸

■プロフィール

1976年、神奈川県出身。アニメーション監督・演出家。宮崎駿監督の主催する「東小金井村塾」で演出を学び、『千と千尋の神隠し』の監督助手に抜擢される。その後、富野由悠季監督作品に携わる。近年の監督作に「亡念のザムド」、『伏 鉄砲娘の捕物帳』など。

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