映画史・時代劇研究家の春日太一。落語やアニメに造詣が深く大学講師も務める学者芸人・サンキュータツオ。宮崎駿作品の監督助手から数々の作品を手掛ける気鋭のアニメーション監督・宮地昌幸。プライベートでも親交の深い3人が、大好きな映画を語り尽くす! 3人のディープでマニアックな偏愛っぷりをどうぞご覧あれ!

今回のテーマ

『少年時代』

『少年時代』

『少年時代』

柏原兵三の小説「長い道」を藤子不二雄Aが「少年時代」として漫画化、それを山田太一が脚本化した。戦時下に疎開した少年達の姿を描く感動作。戦況が悪くなる一方の昭和19年、小学5年生の風間進二(藤田哲也)は、縁故疎開で富山に疎開し、地元の少年達とさまざまな経験をする。この作品のために作曲された井上陽水の同タイトル曲が、作品の切なさを盛り上げる。’90年度日本アカデミー賞最優秀作品賞、監督賞、脚本賞、音楽賞を受賞。

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春日:『少年時代』です。今回は宮地さんのセレクションです。

宮地:これは公開当時、映画館に見に行ったんですよ。子どもの頃には、少年を題材にした映画を見に行くことがよくあったんです。『グーニーズ』なんかも好きでしたし。でも、これは先にお二人の感想を聞いてからの方がいいんじゃない?(笑)

春日:いやいや、先に宮地さんが言った方が。今回僕は最後が良いと思う(笑)

宮地:当時は藤子不二雄A先生のダークサイドものが好きだったんですよ。それで見に行ったんですが、当時は普通に楽しく見ているんですよね。少年の成長もので、王道が凄くきっちりと出来ている感じがあった。

春日:宮地さんが子どもの頃にこれを面白いと思ったのは、どういうところなんですか?

放談風景1

宮地:単純に子どもの、いじめたとかいじめられたとかってあるじゃないですか。ちょっとニヒルな子が出てきたり。自分の周りの、例えば学校の中でいじめのような雰囲気があったときに、こういう図式ってあるなという、単純にそこだけで見ていましたね。そこをワハハと面白がって見ていたのではなく、どこか批評されている感じで見ていましたね。

春日:インタレスティングな面白さという事ですね。結構大人な見かたをしていたんですね。

宮地:子ども時代にはみんな一度はいじめる、いじめられる、その両方を経験すると思うんですが、僕が子ども時代に見た時には、実は思いっきりいじめっ子だったのを覆されてから見ているんですよ。

春日:おお~、大原くん状態だったんだ!

宮地:大原くんが、最後に「俺に同情するな!俺は可哀想じゃない!」と言うじゃないですか。それに凄く胸を打たれた。当時僕もギリギリで、必死だったこともあって。そのせりふに胸キュンしたのを覚えています。
 今回初めて、こういう見かたがあるんだと思ったのは、東京というものにえらい憧れを持っているじゃないですか、この田舎の人たちは。

春日:あだ名に“東京”と付けるくらいですからね。

宮地:主人公って、ある意味何も無いじゃないですか。田舎に疎開をしてきて、ただ東京から来たということだけであんなに憧れられて、周りから“東京”を奪い合うみたいな感じになっていて。それで東京って何なんだろうなと思ったんですよ。そうしたら、田舎の人の立場から考えた時に、「ここではない、希望のある場所」ということになるのかなと。

春日:憧れの場所ですね。

宮地:『少年時代』の文脈で言ったら、あの当時の日本が抱いていた「大きな平和的な世界」みたいなものを指しているのかなと。

春日:フロンティア的な。

宮地:そうですね。東京にいる人はニューヨークに憧れたり。次の希望を見る場所というのが地域ごとに違っていて、そういう意味だと日本のローカルな場所に住んでいる人たちには、東京は「ここではない何処か」として憧れるのかなと。そんなことを思いながら見ました。

タツオ:僕は単純に、疎開した人たちの中で、頭の悪い東京モンはどうしてたのかなと思いました。主人公は頭の良い東京の子じゃないですか。

春日:ああ~。東京に来て面白くない大阪人が苦労するのと同じような感じですね。

タツオ:そう。だからこの子、頭が良くてよかったな~と思って。

宮地:滅茶苦茶いじめられたんじゃないですか?

タツオ:頭が悪い方が割と天真爛漫に馴染んでいたのかなと、そういう余計なことを考えてました。あと女子はどうしていたんだろうかと。男子しか描かれていないですからね。

春日:全部この主人公一人に(東京というものが)集約しているというかね。

タツオ:で、やっぱり『アウトレイジ』的な展開の中にも、この大原くんの「俺は可哀想じゃない!口をきくな!」という、虐げられてもプライドを忘れない姿勢は印象に残りますね。彼は最初から、うちの母親なんかからよく聞く「田舎のクラスを牛耳っている頭の良い子」で、何と言うか、知らないことを知らないと言いたくないプライドがある。「いいから続けろ、質問するな」と言って、ネットや本が無い所において、「話を聞くことの価値」、知らない話を聞く事の価値というものを知っている。

宮地:語り部としての価値ね。

タツオ:これが江戸時代なんかだと、寄席ってやっぱり貴重な場所だったんだなとか、そういう余計なことをたくさん考えましたね。
 そういう意味でも時代観が出ていたし、勝ち負けに捉われず日本人がそもそも持っている品の良さとか、プライドとかも感じましたね。非常に面白かったし、この映画の質がどうかは分かりませんが、最後にあれだけ大切にしていたバックルを本人もいないところに置いていって感謝する、あれだけいじめられて自分も大勢側について彼(大原)を殴ったにも関わらず、大原くんに対しては特別な感情を持っていて、皆が欲しがっていたものを彼にだけあげたという行為に共感できるかどうかが、この映画の軸なんじゃないですかね。

春日:もうね、タツオさんの仰る通りです。

放談風景2

タツオ:凄く複雑な感情じゃないですか。単純に好きとか嫌いとかいう言葉で片付けられない感情なんだけど、最後のあの行為に共感できるか。電車が出ても大原くんが来るんじゃないかと信じている。僕は共感出来たので、この映画は見て良かったなと単純に思いました。

春日:まさにタツオさんの仰る通りで、共感出来るかどうかで、僕は全く出来なかったんです。全く出来なかったというよりは腹が立ったぐらいで。
 それを一旦置いておいて(客観的に)みると、篠田正浩監督にしてはちゃんと面白く作った映画だなと。篠田監督って、いつも「実験映画を作っている」という人で。本当に実験している部分と、娯楽映画の題材であるのに娯楽として上手くいっていない事に対するあらかじめのエクスキューズを言っているのと、両方がある気がして。それで言うとこの『少年時代』って娯楽映画として成り立っているなと。何故かと言うと篠田監督が篠田正浩ではない要素を使っているなということに気付いた。

タツオ:へえ~。

春日:篠田監督、凄い勢いで市川崑を取り入れたなと。まず編集に市川崑とずっとやってきた長田千鶴子さんを使って、普段(の篠田作品)じゃあり得ないくらいにテンポの速い編集をやっている。篠田監督の映画って、本来こんなにテンポが良くないんです。このテンポの良さは正に長田さんの編集だなと。
 (他にも)市川崑印が明らかに出ている。まず大滝秀治が最初に出てきて、最初と最後にコミカルな、というのは完全に『金田一耕助』シリーズと同じ作りですよ。コミカルな要素を入れながら色んなものを和らげていくというのは市川崑イズムであるということと、市川崑の場合「これから物語が不穏になってきますよ」というときに必ずやるのが、浜村純という俳優を、一瞬でもいいから使って何か不穏な空気を作っていく。これまでの篠田作品ではやっていなかったのが、風呂屋で太が次郎長(「石松三十石船道中」)を唄うところ。あそこでおじいさんがいたじゃないですか。あれが浜村純なんですよ。

タツオ:あ、いたいた!

春日:あの名優・浜村純を全く意味の無いところで使うという。これ、市川崑のやり方なんですよ。

タツオ:ああ、そうなんですね。

春日:全くよく分からないところで浜村純を置くけど、それってひとつの始まりの徴で、まさにあそこから不穏になってくるんです。

タツオ:『アウトレイジ』化していくわけですね。

春日:それまで、ある種のおとなしいコミュニティを作っていたものが、だんだん不穏になっていくといのが、実は市川崑のやり方。実は篠田監督は巧みに市川崑のやり方を取り入れながらこの『少年時代』をエンターテインメントたらしめたということに気付いたということが映画史研究家としての見解で。
 でも個人・春日太一として見ると、大嫌いだね、この映画。

タツオ:それはどういうところがですか?

春日:初見当時から映画が好きで、主だった映画は公開日に見に行っていたんです。大体の映画は寛容に、映画って良いなと思って見ていたんですが、この映画を見て生まれて初めて映画に対してネガティブな感情を抱いたんです。嫌いだって思って。

宮地:生まれて初めて・・・

春日:本当に嫌いだと思ってそれ以来見てなかったんです。で、久々に見た時に感じたことが、初めて見た時と全く同じ場面で同じように嫌いだと思った。それはタツオさんが仰ったラストに繋がっていくんですけど、結局主人公って罪を背負うわけですよね。つまり、あれだけ命を助けてくれた男に対して、確かにいじめにはあっていたけど、いじめとは言えないですよね、あれは。他の子たちがやられていたレベルに比べれば。ある種、多数の力に押し切られる形で自分もそれに加担していって、しかも卑怯な事に裏では仲良くするふりをしていくという。この少年のやっている事って・・・

タツオ:集団心理に手を染めていくというかね。飲み込まれていくんですよね。

春日:で、裏では「俺は違うよ」という、一番嫌いなタイプなんですよ。

タツオ:ああ~なるほど。主人公が嫌な奴だと。

春日:彼は僕の目にはずっと嫌な奴としてしか映らなくて、他のメンバーも含めると、ニュートラルなところにいる奴らの悪意って、この作品は凄く描いているじゃないですか。僕も目の前で(そういうものを)経験しているし、当時学校でいじめにあって転校したての頃に見ているというのもあって。

タツオ:思いっきりリアルですねそれ。

《トーク完全版の音源をアップ!》

※この後、主人公の犯した「罪」を赦していいのか否か、掘り下げていきます。YouTubeにて公開中の完全版音源でどうぞ。

次回は7/31(金)UP、テーマは『総括 黒澤明の仕事』です。お楽しみに!

【プロフィール&近況】

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春日太一

■プロフィール

1977年東京都生まれ。映画史、時代劇研究家。関係者40名超のインタビューを収めた豪華決定版「文藝別冊 五社英雄-極彩色のエンターテイナー(河出書房新社)」ほか著書多数。最新刊「役者は一日にしてならず(小学館)」、「時代劇は死なず!完全版:京都太秦の「職人」たち(河出文庫)」が好評発売中。

近況

九州旅行に行きます。

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サンキュータツオ

■プロフィール

1976年東京都生まれ。漫才コンビ「米粒写経」のツッコミ担当。博識を生かした落語関係、学術論文の執筆などのほか、一橋大学の非常勤講師を務める。イラストやアニメ、映画への造詣も深く、幅広く活躍。定期落語会「渋谷らくご」に出演中。研究者たちの大まじめな珍論文を、芸人の嗅覚で突っ込みながら解説する著書「ヘンな論文」(角川学芸出版)が好評発売中。

近況

8月2日、渋谷公会堂で「東京ポッド許可局」のトークイベントをやります。よかったら来てネ!というか、来い。

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宮地 昌幸

■プロフィール

1976年神奈川県生まれ。アニメーション監督・演出家。宮崎駿監督の主催した「東小金井村塾」で演出を学び、『千と千尋の神隠し』の監督助手に抜擢される。その後、富野由悠季監督作品に携わる。近年の監督作に「亡念のザムド」、『伏 鉄砲娘の捕物帳』など。

近況

この映画を見てツーレロ節を覚えました。あと電車を走って追いかけて敬礼しました。