映画史・時代劇研究家の春日太一。落語やアニメに造詣が深く大学講師も務める学者芸人・サンキュータツオ。宮崎駿作品の監督助手から数々の作品を手掛ける気鋭のアニメーション監督・宮地昌幸。プライベートでも親交の深い3人が、大好きな映画を語り尽くす! 3人のディープでマニアックな偏愛っぷりをどうぞご覧あれ!

今回のテーマ

『チャンバラが消えた日』

『チャンバラが消えた日』

『チャンバラが消えた日』

太平洋戦争終結後、GHQ(連合国最高司令官総司令部)による“チャンバラ禁止令”のもと、時代劇そしてチャンバラが制作できなかった時代を舞台にした、時代劇専門チャンネルのオリジナルドラマ。当時の時代劇スターは現代劇に活路を見いだし時代劇は衰退。しかし、危機を迎える中にあっても、時代劇の灯を守ろうとした男たちがいた…。厳しい検閲の困難を乗り越えて、時代劇を今に伝えようとした者たちの闘いの物語。

放送スケジュールを見る

春日:この枠は何というか、ひとつの「お勉強枠」として、黒澤明の特集がひと段落ついたので、その代わりと言ってはなんですが、今後、毎回一本は春日が映画史というか、映画のことを皆さんで勉強してみましょうという枠で今回から入れさせて頂いた限りでございます。

 今回は『チャンバラが消えた日』という、おそらくこの連載を視聴している方も聞いたことの無い作品だと思います。それもそのはずで、「日本映画専門チャンネル」と「時代劇専門チャンネル」を運営している日本映画放送(株)のオリジナル作品です。

宮地:そうだったんですね。

放談風景1

春日:ここ最近、オリジナル時代劇などの番組を制作していて、かなりのクオリティーだったりするんですが、この『チャンバラが消えた日』の制作母体となったのは、“京都組”というプロダクションでして。元々は大映京都撮影所という、「座頭市」や「眠狂四郎」なんかを作ってきた、勝新太郎、市川雷蔵らが活躍し、市川崑が『炎上』を作ったところが倒産して、そこのスタッフたちが代わりに作ったのが映像京都という会社。そのプロダクションも2005年に解散という形で無くなり、解散した若手スタッフたちが集まって作られたのがこの“京都組”。京都にいる若手、東京でいえば中堅になる年代の人たちが中心になって作っているプロダクションで、日本映画放送さんと組んで色々な番組を作っている。それで今回もこのオリジナル作品を作ったというわけです。

 僕からすると、かなり思い入れのある人たちで、“時代劇研究家・春日太一”のスタートは、2003年に映像京都の撮影現場をクランクインからクランクアップまでずっと取材をさせて頂いた中で、「スタッフの仕事って凄いな」と思ったところなんです。そのスタッフたちは映像京都の人たちなんですけど、その当時、彼らの下で汗をかいて働いていた人たちが、今の京都組の主力メンバーとなるわけです。だから僕は作品を作ったスタッフを見ると、凄く懐かしいと言うか、一本立ちしてこういうのを作っているんだ、という気持ちになる。

 舞台となる時代的に言うと、日本が敗戦を迎えてアメリカが進駐してくる、となったときに、「日本の時代劇は封建社会の象徴である」と。特に仇討とか、その仇討に対するチャンバラというものは表現として禁止する、ということで、それまで日本の軍隊、憲兵が日本の映画を検閲していたのが、今度はアメリカが検閲するようになり、その検閲の一番の対象となったのは時代劇だった。そして当時の時代劇スターたちがチャンバラをやれなくなったため、片岡千恵蔵は『七つの顔』で“七つの顔を持つ男・多羅尾伴内”役で探偵として拳銃を撃つという、皆、拳銃ものに変わっていく。その変化していく時代というものを、ある種のフィクションとして当時の撮影所の様子を描いてみた、というのがこの『チャンバラが消えた日』というわけです。

 タツオさん、いかがでした?

タツオ:いやもう、福本清三さん(瀬島源三郎役)、ヤバいですね。殺陣の人たちが仕事を失って雑用係として雇ってもらったというくだりでね。

宮地:切ないですね~。

タツオ:でもそれでいて、卑屈じゃないんですよね。「雑用係なんて・・・」という感じではなく、ひたすら有り難がってやっているんですよ。それで監督(永野宗典、松尾京一郎役)が自宅を訪れたときにも全然下卑た感じがないというか、やっぱり品が良いんですよね。でも、「監督、よろしくお願いします」と言っている感じが、殺陣師とはいえ、ハートから侍だという感じがして、あのあたりはグッときちゃいましたね。泣きそうになっちゃうくらい凄く良かったなと思いました。実際にチャンバラがいかに検閲されていたかという歴史的な側面と、それに対して映画に携わってる人たちが、どういう姿勢で臨んでいたか、あるいはチャンバラをやろうと思っていた監督が、どちらかと言うと超少数派で完全に矢面に立たされている感じと、映画会社の社長の軽い感じとかもね、あの理念の無い感じ。

宮地:やはり戦争は人間をひっくりかえしちゃうから。

春日:(元から)ああいう人なんですよ。

放談風景2

タツオ:プロデューサーならまだ分かるけど、社長かよ!って。一番権限を持っている人間が軽い、理念が無いというのが、まるで日本の象徴のようで、チャンバラを作ろうと思っている監督も殺陣師も、みんな侍魂というか、日本であること、単にチャンバラをやれなくなるということが、自分の中で何を明け渡してしまうのかということをもの凄く考えていた人たちがいるという。それがまた進駐軍側の通訳の・・・

春日:鈴木杏さん(瀧澤紅子役)ですね。

タツオ:彼女が最終的に理解を示してくれるまでの過程というか。凄く良いものを見たなという感じでしたね。

春日:ウェルメードではありましたね。

宮地:僕は単に映画だと思って見ていたので、難しいなと。例えば僕らなんかはチャンバラというものが「子どもの頃から好きで好きで」と言えるような世代ではないじゃないですか。春日さんも個人的には大好きだったんでしょうけど、周りに好きな人が大勢いたわけではないと思うんです。もし自分が「チャンバラをリスペクトする」という作品の発注を受けたときに、チャンバラの良さを伝えるところからスタートしなければいけないと思っちゃうんです。僕の場合だったら。

春日:なるほどね。そうか、知らない人にも分かるように。

宮地:やはりこれを見てすぐチャンバラ映画を見たくなるとか、もしくは「滅びゆくものって大事だな」という啓蒙をされるかどちらでもいいんで、やはり見ていて「格好良いチャンバラが見たい!」となるか。

春日:この作品に関しては、褒めるところとそうでないところがありますが、褒めない点というのはまさにそれで、そこまでして頑張って撮ったチャンバラシーンに迫力が無いことなんです。どうしても「今のチャンバラ」になってしまっているんですよ。スタッフもキャストも’45年のチャンバラを再現しなければいかなかったのに、追い付いていないんですよ。そこのところはもっと力を入れてやらないと。福本さんは圧倒的に迫力があって上手いのに、他の役者が彼に追い付けていない。中心となる役者たちは、要は片岡千恵蔵や阪東妻三郎の代わりとしているわけだから、彼らと遜色無い技量で演じなければならないんです。そこに言い訳があってはいけないんです。宮地さんが仰ったことは、実はそこさえちゃんと作られていればクリアできたはずなんですよ。

タツオ:メタとしてやることの宿命ですね。

春日:よくお笑いを描いた作品なんかで、肝心の漫才が面白くないというのと同じで、この手の映画の難しさでもある。でも京都の保守本流の流れを汲むプロダクションで作るのであれば、やはりそこはちゃんとやらなければならなかったなと思うところですね。

宮地:例えば自分なんかの場合も、こういう題材の依頼がきたらどうしようかと考えるんですが、歴史ものをやるときって、やはり(題材として)一番良いのは書籍で、そこで自発的に学びたい気持ちを頂いて、後はオリジナルにというやり方が良いような気がするんです。例えば時代劇が大好きなおじさんがいて、「私財を投げ打ってチャンバラの面白いのを一本作ってから死にたい。俺を喜ばすチャンバラを作れ」と京都の撮影所の方に札束をドーンと渡すというようなミッションを与えられるとか・・・

タツオ:その方がときめくよね。

宮地:そういうような超等身大の方が楽しくなれるというか。「俺、チャンバラなんて知らないよ」とか言いながら、今僕らが持っているチャンバラの疑問を上手いこと全部シナリオに書いて教えてもらって、それで「やばい、勝新太郎、凄い」みたいな感じになったり。

春日:それもひとつの手ですね。そういう意味ではこの『チャンバラが消えた日』に関して言うと、例えば鈴木杏の役は、普通なら男が演じる役を女性にしたりとか、そこでの劇的な効果とか、映像的な効果を使おうと工夫はしているんだろうけど、もうひとつ何かが欲しい。主役を監督にするんじゃなくて、例えば現場に入ってきた若いやつとかにして、ひょっとしたら時代劇に興味が無い奴かもしれない。「時代劇は凄いんだ」、「いやいやもうピストルものでいいじゃないですか」というような葛藤があるとか。

《トーク完全版の音源をアップ!》

※この後、話は「現代にこの作品を作る意義」について掘り下げていきます。続きはYouTubeで公開中の完全版音源でどうぞ。

次回は8/21(金)UP、テーマは『雨鱒の川』です。お楽しみに!

【プロフィール&近況】

talks-speaker-kasuga

春日太一

■プロフィール

1977年東京都生まれ。映画史、時代劇研究家。関係者40名超のインタビューを収めた豪華決定版「文藝別冊 五社英雄-極彩色のエンターテイナー(河出書房新社)」ほか著書多数。最新刊「役者は一日にしてならず(小学館)」、「時代劇は死なず!完全版:京都太秦の「職人」たち(河出文庫)」が好評発売中。

近況

今年は今頃、海外に逃げているはずだったのですが・・・。

talks-speaker-kasuga

サンキュータツオ

■プロフィール

1976年東京都生まれ。漫才コンビ「米粒写経」のツッコミ担当。博識を生かした落語関係、学術論文の執筆などのほか、一橋大学の非常勤講師を務める。イラストやアニメ、映画への造詣も深く、幅広く活躍。定期落語会「渋谷らくご」に出演中。研究者たちの大まじめな珍論文を、芸人の嗅覚で突っ込みながら解説する著書「ヘンな論文」(角川学芸出版)が好評発売中。

近況

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を4DXで見ました。吐きそうになりました。

talks-speaker-kasuga

宮地 昌幸

■プロフィール

1976年神奈川県生まれ。アニメーション監督・演出家。宮崎駿監督の主催した「東小金井村塾」で演出を学び、『千と千尋の神隠し』の監督助手に抜擢される。その後、富野由悠季監督作品に携わる。近年の監督作に「亡念のザムド」、『伏 鉄砲娘の捕物帳』など。

近況

リティ・パニュ監督『消えた画 クメール・ルージュの真実』が素晴らしかったです。原作「消去: 虐殺を逃れた映画作家が語るクメール・ルージュの記憶と真実」も素晴らしかった。