映画史・時代劇研究家の春日太一。落語やアニメに造詣が深く大学講師も務める学者芸人・サンキュータツオ。宮崎駿作品の監督助手から数々の作品を手掛ける気鋭のアニメーション監督・宮地昌幸。プライベートでも親交の深い3人が、大好きな映画を語り尽くす! 3人のディープでマニアックな偏愛っぷりをどうぞご覧あれ!

今回のテーマ

『難波金融伝 ミナミの帝王27 仮面の女<ニューマスター版>』

『難波金融伝 ミナミの帝王27 仮面の女<ニューマスター版>』

『難波金融伝 ミナミの帝王27 仮面の女<ニューマスター版>』

銀次郎と金の亡者との白熱する頭脳戦も見ものの、人気OVシリーズ第27弾。貸した金は必ず回収する銀次郎と熾烈な攻防を繰り広げる敵役ゲストに、美貌と演技力を兼ね備えた夏樹陽子を配することで、サスペンス風の異色作に仕上がっている。昔なじみの町工場の社長が、経営コンサルタントを名乗る真理子(夏樹)が持ちかけた病院移転計画をめぐる儲け話で金を巻き上げられたと知った銀次郎(竹内力)は、かつて同じ手口で顧客を騙した女性の存在を思い出し調査を開始する。

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春日:それではね、(竹内力のモノマネで)今回は『難波金融伝 ミナミの帝王27 仮面の女<ニューマスター版>』ですわ。

タツオ宮地:(笑)

春日:「ミナミで金貸しやらしてもろうてます、萬田銀次郎いうもんですわ」もうね、僕はこのせりふを聞くためだけに毎回(このシリーズを)見ていると言っても過言ではないですね。

宮地:毎回。春日さん、そんなにお好きなんですか?

春日:大好き。もう死ぬほど好きで。仕事で映画をハードに見ているので、空いた時間にゆるく作品を見たくなるわけです。

宮地:疲れないようにね。

放談風景1

春日:ストレスがかからない作品がいい。もちろん思想はいらないし、激しくても駄目だけど、何も無さ過ぎるとそれはそれでイライラする。といって、ただの人情話だと刺激がない。これはヤクザとか金の話で、刺激はあるけどウェルメードという、良いバランスなんですよね。それが休日の暇つぶしで見るのにはこれほど適した作品は無いという。

タツオ:だから人気があるんでしょうね。

春日:しかもシリーズがたくさんあるので、どれがどれかは良く分からないんです。

宮地:どこから入っても平気なんですか。

春日:どこからでも大丈夫です。全部一話完結ですから。

タツオ:(長距離)バスで見るのに最高ですね。

宮地:いつ寝ても良い優しさもあるね。

春日:そう。途中で見ても大体分かるんです。凄く優しく作られている作品で、優しく作られているんだけど、何でしょうね、ディテールが激しかったりというのがあるから、飽きない。だから僕の心に本当にピッタリな作品。

タツオ:尺も良いよね。

春日:大体85分くらい。

宮地:ああ~ちょうど良い。

春日:昔のプログラム・ピクチャーの時間で、勧善懲悪をやるには最高の時間なんですよ。そして萬田銀次郎(竹内力)は絶対にぶれないし、内面も何も無い。葛藤も無いし、「ほうでっか」と言って相手のところに乗り込んでいって「萬田銀次郎いうもんですわ」と言って相手から金をふんだくってくるという、もう最高の話ですよ。

タツオ:しかも悪い奴からね。

春日:萬田も悪なんですよ。でももっと悪い奴と戦う。出てくる人間はみんな借金の話ですから何かしら悪いんですよ。でもそこに親子の情とか、そういうのがちょうどよく入ってくる。基本的には全部同じ話です。何だろうな、“良く出来たアウトロー人情話”というものなんで、日曜の夕方とかに、これを見た後に昼寝しようとか。

宮地:「少年ジャンプ」でいう「こち亀」(「こちら葛飾区亀有公園前派出所」秋本治 著)枠みたいな感じですね。

春日:「こち亀」のヤクザ版みたいな。僕は「こち亀」くらいだと逆にイライラしちゃうんですよ。良い話過ぎて。もっとアウトロー色が欲しいんだけど、かといって『仁義なき戦い』とか、鶴田浩二の映画みたいになっちゃうともう疲れてくるわけ。ドラマがあるから。

宮地:この萬田銀次郎って、他にどういう役者さんが演じられてるんですか?

春日:竹内力と、竹内力と、竹内力。あとは若手バージョンということで千原ジュニアがやりましたけど、これは全然面白くないですね。

宮地:じゃあ基本的には竹内力の独占状態で。

春日:そりゃそうです。『座頭市』の勝新太郎と同じようなもんで、萬田銀次郎と言ったら竹内力ですよ。

宮地:じゃあ竹内力のキャラクター性ってあるじゃないですか、もともと持っている。それはイコールこの「萬田銀次郎」のキャラになってるんですか?

春日:それは一作目から徐々に変わってきている。竹内力は元々トレンディードラマにも出ていた人だから、爽やかなんですよ。爽やかな青年みたいな雰囲気があって、それが悪人に挑んでいく感じだったのが、どんどん本人に貫禄が出てきてそれと同時に萬田銀次郎にも貫禄が出てきて。だからそれは『座頭市』に近い。本人の役者としての変化と役柄の変化がくっ付いてきている。せりふの量も減っていくし。

タツオ:平成の勝新じゃないですか~。

春日:もう表情だけで、何か見えちゃうというか。

宮地:何となくの印象だけで、僕の人生も有限だから、近づかない方が良いかなと思ってたんです。今回は春日さんのセレクションということで・・・

タツオ:これもチャレンジ枠ですよ。

放談風景2

宮地:そう、チャレンジ枠ということで、「まあ、いってみっか」という感じで見たんですが、まず普通の印象として、こういう映画が、疲れて帰ってきてバラエティー番組みたいにキャーキャー騒いでいるやつじゃなく、ちょっとドラマが欲しいというときに、パッとテレビをつけて。でも上の目線から「平和とは」とかも言われたくないんですよ。

春日:仰る通り。

宮地:となったときに、ビールを飲みながら柿ピーに合う感じ、みたいな。そんな感じですよね。

春日:だから実は、シリーズ初期の頃の力さんが一生懸命やってるものよりも、この時期の方が良いまったり感があって。週末に風呂上がりに上半身裸でビールをぐいぐい飲みながら、こっちも「ほうでっか~」と言いながら見ているわけですよ。

宮地:分かった、観戦だ。竹内力の観戦をしているみたいなんだ。

春日:アイドル映画です。竹内力のアイドル映画。

タツオ宮地:(笑)

春日:アイドル映画の証明は何かというと、毎カット毎シーンで衣装が変わるんですよ。いろんな衣装の竹内力を見せるんです。それから、竹内力がこんな車に乗っているとか。

タツオ:竹内力という俳優の愛しみ方を初めて教えてもらった感じがありますね。萌えキャラなんだ!と思って。

春日:プログラム・ピクチャーの頃の、昔ながらのスターシステムで作っている作品なんです。

タツオ:そうですよね。大量生産出来るような。

春日:だから高倉健とかの映画の感じなんですよ。まさにその感じだから、スターが格好良ければ基本的には良い映画なんです。そのためにいろんな脇役をとか悪役たちが支えているという、本来あった日本の娯楽映画の形なんです。それを今の形にするとこうなるということを見せてくれている。例えば高倉健の映画を見ているとき、僕でもちょっと古いかなと思うことがある。日曜の夜にだらーっとしたいときに何も考えないで見るには、健さんの場合はもう一個筋肉を使うんですよね、我々の世代が見るときって。でもこれは筋肉を使わなくても良いんですよ。おそらく高倉健の映画を’60年代のど真ん中で好きだった人たちって、意外とこのくらいアバウトに見ていたんじゃないかなと。今見るとそれこそいろんな名優が出ているし、「凄いな、健さん格好良いな」となるけど、当時はそれが普通じゃないですか。そのくらいアバウトだったんじゃないかな。

宮地:例えば半日休みが出来たとなったときに、じゃあ良い映画もやってないからレンタルで何か、というときにビデオの棚を見ていると・・・

タツオ:『ミナミの帝王』、結構ありますよね!

宮地:あるんだけど、ぱっと見たときに、来てはみたけど借りるものがないなと、結局手ぶらで帰ることもあって。

タツオ:その時に『ミナミの帝王』だったんですよ。

宮地:だったんでしょうね

春日:まさにそういう時に『ミナミの帝王』!

宮地:つまり映画を勉強として見ようとし過ぎているんですよね。

春日:僕も宮地さんも(映画を見ることが)仕事になっているというのがあるじゃないですか。やはりそこから解放されたいわけですよ。仕事にならない映画が見たいというのかな。そういう感覚があって。だからどうしても、例えば宮地さんだったら映画を見るときに、「このワンカット、このシーンの運び方が勉強になる」とか・・・

宮地:それはありますね。

春日:やはりどこかでクリエイターとしての目が出てくる。

宮地:そのアンテナを降ろせないんですよ。

春日:僕もそうなんですよ。やはり見ながら研究家として色々な目で見ちゃうんですよ。それを降ろしたいんです。『ミナミの帝王』は降ろせるんですよ。

タツオ:それ、褒めてないでしょ(笑)

春日:いや、褒めてるの!これ最高の褒め言葉!

《トーク完全版の音源をアップ!》

※まだまだ止まらない「ミナミの帝王」の魅力語り。続きはYouTubeで公開中の完全版音源でどうぞ。

次回は9/4(金)UP、テーマは『ちゃんと伝える』です。お楽しみに!

【プロフィール&近況】

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春日太一

■プロフィール

1977年東京都生まれ。映画史、時代劇研究家。関係者40名超のインタビューを収めた豪華決定版「文藝別冊 五社英雄-極彩色のエンターテイナー(河出書房新社)」ほか著書多数。最新刊「役者は一日にしてならず(小学館)」、「時代劇は死なず!完全版:京都太秦の「職人」たち(河出文庫)」が好評発売中。

近況

今年の夏は、さわやかなファッションにチャレンジしてみました。

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サンキュータツオ

■プロフィール

1976年東京都生まれ。漫才コンビ「米粒写経」のツッコミ担当。博識を生かした落語関係、学術論文の執筆などのほか、一橋大学の非常勤講師を務める。イラストやアニメ、映画への造詣も深く、幅広く活躍。定期落語会「渋谷らくご」に出演中。研究者たちの大まじめな珍論文を、芸人の嗅覚で突っ込みながら解説する著書「ヘンな論文」(角川学芸出版)が好評発売中。

近況

秩父の「三峰神社」に行ってきました。最高のロケーション。毎年行ってます。

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宮地 昌幸

■プロフィール

1976年神奈川県生まれ。アニメーション監督・演出家。宮崎駿監督の主催した「東小金井村塾」で演出を学び、『千と千尋の神隠し』の監督助手に抜擢される。その後、富野由悠季監督作品に携わる。近年の監督作に「亡念のザムド」、『伏 鉄砲娘の捕物帳』など。

近況

山田太一さんの作品はどれも好きです。「ナイフの行方」も良かったなぁ。「今朝の秋」も好き。