映画史・時代劇研究家の春日太一。落語やアニメに造詣が深く大学講師も務める学者芸人・サンキュータツオ。宮崎駿作品の監督助手から数々の作品を手掛ける気鋭のアニメーション監督・宮地昌幸。プライベートでも親交の深い3人が、大好きな映画を語り尽くす! 3人のディープでマニアックな偏愛っぷりをどうぞご覧あれ!

今回のテーマ

『ちゃんと伝える』

『ちゃんと伝える』

「紀子の食卓」「愛のむきだし」の園子温監督が、父と子の心の葛藤と絆を優しく見つめた感動の家族ドラマ。父が病に倒れ、初めて父に向き合おうとする息子・史郎(AKIRA)。限りある時間のなかで、史郎は父(奥田)との大切な約束を果たそうとする。ところが、彼自身もガンに蝕まれ父よりも短い余命宣告を受けてしまう。あまりにも残酷な運命を背負った史郎。父を気遣い、自身の苦しみを誰にも打ち明けられないまま時間だけが過ぎていく。しかし、そんな彼に見えてきたのは、家族、友人、そして恋人とのかけがえのない心の絆だった。

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春日:『ちゃんと伝える』です。タツオさんのセレクションです。

タツオ:タイトルを見て、不勉強なもので、拝見したことがない映画だったので、「見たことがないやつを見てみるシリーズ」として見てみました(詳細は、『雨鱒の川』の回を参照してください)。映画マニアじゃない自分としては、情報を知らないのは毎回楽しいです。

放談風景1

 この映画のポイントは、主人公(AKIRA)が途中、橋の上を走りながら「ちゃんと伝える、ちゃんと伝える」と自分に何回も言い聞かせるシーンが印象に残ればOKで、それが共感できなかったり、印象に残らないのであればNGな映画なんだと思うんですよ。お涙頂戴要素は多分にあるんですけど、そういうのは別にどうでもよくて。「ちゃんと伝える」と何回も言うということは、「ちゃんと伝えられない」という現実があるからということだと思うので、「ちゃんと伝える」というところに共感できればいいのかなと思いました。そこがこの映画の是非を峻別するポイントだと思います。僕は何の前情報も無かったので、主人公がEXILEの人とかそういうのも全然知らなかった。
 で、僕はわりと最後まで楽しく見れましたが、結構扱っている問題や手法も、凄く難しいなと思いました。まず「父と息子」という関係性が珍しい。大体「父」ときたら「娘」というのが、文芸の世界でも「娘と私」(獅子文六)とかから続く伝統的な関係性で、描きやすいと思うんですよね。

春日:そうか、「息子」ときたら大体は「母親」だしね。

タツオ:その方が描きやすいんですけど、「父と息子」で、2人とも仲が良いという。だからドラマが生まれにくい、難しい関係性だった。しかも2人ともとっても素直なんですよね。これ、お父さん役(奥田瑛二)が鶴田浩二だったら良かったのにと思ったんですよ。頑固な人とかね。
 (父と息子の)どちらかが素直になれないとかだったら、まだドラマも生まれそうなもんなんですけど、まず親子関係が良好で、癌という病気がなかなか家族の共通の話題にできない部分から始まっているので、逆に難しい題材ですよね。
 彼女(伊藤歩、中川陽子役)に関しても家族公認の中だし、その彼女と結婚するタイミングが、お父さんの問題が片付いてからなのかというところが一応のタブーであったりもするんですけど、なんでこんな難しい関係性で難しいことをやるんだろうというのが、ちょっと映画的ではないなというふうにも思ったんですけど、むしろそこが面白かった。
 一番良かったシーンは、高橋恵子(北いずみ役)がとにかく可愛い。高橋恵子が大好きなので。

宮地:確かに、綺麗ですね。

タツオ:『大日本帝国』のときの高橋恵子を超えてきたかもしれない。あのときの防空壕で見せた高橋恵子のオッパイ。

春日:あれは良かった。

タツオ:あれが素晴らしいんですけど、あれよりも、お父さんに「一緒に寝よう」と言う高橋恵子。「ああ、僕にも言ってくれないかな」とちょっと思いました。

春日:僕としては、AKIRAの使い方ってこれだなと思った。「EXILEのAKIRA」という先入観がみんな先にあるから、どうしてもワイルドな役だったり、ヒロイックな役なんかをやらせたりしがちですけど、そうすると(演技の)下手さが際立つ。髭を剃った、踊っていないAKIRAって、見た目は「普通の兄ちゃん」で決して格好良くはないんですよね。だから今回見て思ったのは、「こういう役ならありじゃない?」って。

放談風景2

ヒロイックな芝居のある役じゃなくて、ホームドラマに出てくる酒屋とか八百屋とかの、「EXILEのAKIRAでございます」という役じゃない方が合うんじゃないかいかなと。
 それから、タツオさんと同じく奥田瑛二の役が鶴田浩二だったら、同じ映画でももっと違う迫力が生まれてくると思った。高橋恵子の存在が大きく効いているし、AKIRAはあれでイイんだけど、そうすると奥田瑛二が弱い。

タツオ:サッカー部の監督としてバリバリやっていた時代といういのが、何となくフラッシュバックしている分、「あ、今は丸くなっているんだな」というのがあるんですよ。

春日:あのフラッシュバックが凄く難しかった。多分やり方が二つあって、「(今の)衰えた奥田瑛二」を見せることで、フラッシュバックを見せなくても何となく「あ、この人昔は凄かったのかもしれない」というのを後ろに感じさせる演出の仕方というのがあると思うし、あとは一方では「(昔の)バリバリの姿」を演じていて、もう一方では「(今の)衰えた姿」も映すというギャップを見せていくというやり方があります。この場合、どちらも「今は衰えている」ことを見せないといけない。
 そこで奥田瑛二が手を抜いてるなと思った。というのも、(回想シーンと今のシーンとで)見た目も芝居もほぼ同じなんですよね。全然衰えているように見えない。この映画の弱いところは実はそこなんじゃないかなと。フラッシュバックでの軍人のようにバリバリやっている奥田瑛二と、ベッドの上にいる奥田瑛二(の見た目)がほぼ同じでいる。衰えた父に対して自分の病気をどう伝えるか、父の死をどう受け止めるかが大事な映画なのですから、やはり病んだ演技がちゃんと出来ないと。どう見てもバリバリ(の男のまま)ですからね。高橋恵子を(自分の)横に寝せるシーンがあるじゃないですか。あそこが何だかスケベ心に見えちゃうんですよ。あれじゃ駄目で、あそこが一番の泣かせどころなんですよ。昔はバリバリやっていた男が衰えてしまって、それでも奥さんを横に寝かせたいという切ない感情を表現するためには、もっと衰えていないと。「ああ、もう(妻を)抱けないんだ、この男は。昔は抱けていたのに」と思わせるには。でもこれ、横に寝ていたらそのまま襲いかかりそうなくらいの男感を奥田瑛二は出している。

宮地:僕は園子温監督の作品って、中野武蔵野ホールに『自転車吐息』も見に行ったくらいで、若い頃からずっと見ている監督なんですけど、『ちゃんと伝える』は見たことがなくて。園監督というとやはりどこかエクストリームな映画が良いというか。『紀子の食卓』もそうだし、『自殺サークル』とかもホラーテイストだったり。
 この映画は凄くシンプルに良い話なんだろうなと思ったんですけど、それでもやはり「園監督の作品って良いな」というか、「こういうカラーなんだな」というところで見ちゃった。ストレートな話だけど逆転の捻りも入れてくれていて、それが直球で一回捻りなんですよね。それがちょっと(これまで見た作品とは)雰囲気が変わっていて、全然飽きないというのがありますね。

タツオ:例えばどんなところ?

宮地:分かりやすいところでは、「父親が死ぬと思っていたら実は自分だった」というところで、やはり画作りとかに関しても、凄く細かくディテールを、というよりはまず大きく「この寂れた商店街をひとつドン、これを定点でいこう」とか、「“走る”をやろう」、「蝉の抜け殻をずっと押さえておこう」ということで、“生きている=走る”、“死んでいる=抜け殻”とか、“寂れた街=昔”みたいに、ある意味ストレートなんですけど、そういうところをずっと押さえてくれるから・・・

春日:メリハリをがっちりしてくれる。

宮地:そう。メリハリ良く凄くシンプルにきっちりやってくれるので、低予算っぽく見えるのに何か見やすかったり飽きなかったりということをしてくれるのは、「園監督、低予算だけどいいですか?」と言ったら思った以上の点数で(作品を)返してくれて嬉しい!というお金を出す側の気持ちなんかも、園監督にはあるのかなと。
 あとは回想シーンの話で言うと、最後の方まで見たときに元々のシナリオにある話かどうかは分からないんですが、結局これは「親から教わることって何だろう、良い生徒でい続けるって何だろう」ということなんだろうなと思ったんですよ。AKIRAが「学校ではお父さんと呼ぶな、先生と呼べ!」というあの言葉に最後まで忠実に生きようとした、「お父さんの良い生徒でいたい」という話だったのかなと思いながら見たんですよ。
 最後にお父さんがわが身を張って「死とは何だろう」ということや、「親孝行って何だろう」ということを教えてくれたのかな、ということを思ったりもしました。

《トーク完全版の音源をアップ!》

※この後、話はキャスティングの名手としての園監督のことなどに触れていきます。続きはYouTubeにUPされている完全版音源でお楽しみください。

次回は9/11(金)UP、テーマは『天使のはらわた 赤い教室(R-15版)<R-15>』です。お楽しみに!

【プロフィール&近況】

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春日太一

■プロフィール

1977年東京都生まれ。映画史、時代劇研究家。関係者40名超のインタビューを収めた豪華決定版「文藝別冊 五社英雄-極彩色のエンターテイナー(河出書房新社)」ほか著書多数。最新刊「役者は一日にしてならず(小学館)」、「時代劇は死なず!完全版:京都太秦の「職人」たち(河出文庫)」が好評発売中。

近況

嫌な8月でしたね・・・。

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サンキュータツオ

■プロフィール

1976年東京都生まれ。漫才コンビ「米粒写経」のツッコミ担当。博識を生かした落語関係、学術論文の執筆などのほか、一橋大学の非常勤講師を務める。イラストやアニメ、映画への造詣も深く、幅広く活躍。定期落語会「渋谷らくご」に出演中。研究者たちの大まじめな珍論文を、芸人の嗅覚で突っ込みながら解説する著書「ヘンな論文」(角川学芸出版)が好評発売中。

近況

渋谷公会堂、8月2日超満員ありがとうございます。「東京ポッド許可局」(TBS)、これからもよろしく!

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宮地 昌幸

■プロフィール

1976年神奈川県生まれ。アニメーション監督・演出家。宮崎駿監督の主催した「東小金井村塾」で演出を学び、『千と千尋の神隠し』の監督助手に抜擢される。その後、富野由悠季監督作品に携わる。近年の監督作に「亡念のザムド」、『伏 鉄砲娘の捕物帳』など。

近況

園子温監督の『冷たい熱帯魚』、面白かったなあ。