映画史・時代劇研究家の春日太一。落語やアニメに造詣が深く大学講師も務める学者芸人・サンキュータツオ。宮崎駿作品の監督助手から数々の作品を手掛ける気鋭のアニメーション監督・宮地昌幸。プライベートでも親交の深い3人が、大好きな映画を語り尽くす! 3人のディープでマニアックな偏愛っぷりをどうぞご覧あれ!

今回のテーマ

『シャツの店(前半)』

『シャツの店』

頑固一徹なシャツ職人とその妻、息子が繰り広げる家族間の葛藤を、東京・下町を舞台に描く。鶴田浩二が昔気質な主人公を絶妙な演技で魅せる。東京で指折りの腕を持つシャツ職人・周吉(鶴田)。ある日25年も連れ添った妻・由子(八千草薫)が、大学生の息子(佐藤浩市)と共に突然出て行ってしまう。仕事中心、厳格な家長として通してきた周吉は戸惑い、これまでの自分の生き方を見つめ直す。

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春日:この連載で初めてのテレビドラマで、春日セレクションです。何で選んだかというと、イメージとしては、昔はテレビドラマとか見たら翌日に学校で「あれ見た?」って共有しあう感じというんでしょうか。「次回どうなるんだろうね」「今回こうなったね」っていう、あの感じって最近意外と無いなと思ったので、そういう感じでやれたら面白かいなっていうのも含めて、テレビドラマを取り上げてみようという。
 僕は子どもの頃にリアルタイム放送で見てるんです。とにかくうちは子どもにも容赦ないというか、物心つく前は一緒にアニメや戦隊ものを見ましたけど、それを卒業した途端に、その間にあるはずのバラエティ番組とか、もうちょっと若者向けのドラマとか一足飛びに外されて、いきなり時代劇とか・・・

タツオ:お父さんお母さんが見たいやつを見るんだ。

放談風景1

春日:そう、それにただ単に僕は付き合わされるという状況になって、今の春日太一が出来あがっていくわけです。多分、小学生くらいですよ、しかも小学生の低学年だったと思うんですけど。そこでこれを見させられて、子どもには分からない世界ではあるんですけれど、一方で何かこの枯れた鶴田浩二(磯島周吉 役)、僕は“初・鶴田浩二”はこの作品だったんですけれども、それが凄く嬉しかったというか、子供心にも格好良く見えた。このおじいさんのひねくれた感じって格好良いなって思っていて。それでこの作品がずっと好きで、後に再放送されるようになってまた見直して、ようやく大人として意味が多少分かって。「こんなのを小学生の頃に見させられてたんだ」って、早い段階からお菓子じゃなくて漬物ばっかり食べさせられてきたような、そんな感じの子ども時代を思い出しつつ。

タツオ:今のドラマがいかにサービス過剰でつまらないかというのを逆説的に知らされますよね。アバン、路地裏のシャツの店の看板に、蛾みたいなのがカーンとぶつかっている。
 それからタイトル。「シャツの店」。何だそのタイトル!? でも、ドラマってこうだったよなっていう。「岸辺のアルバム」とかもそうだったと思うんですよ。それに比べると今のドラマって本当にチャラチャラしてるなっていう所から入りまして。
 いわゆる、頑固親父ものみたいな内容なんですけど、もう年かな、鶴田浩二が一つも間違ってないようにしか見えない。こいつ正しいじゃん! 別に一つも悪いこと言ってないじゃん、みたいな。え、何で出ていくの? 彼、悪いこと言ってなくない?みたいな。完全に鶴田側で楽しんじゃってる。100パーセント鶴田感情移入!

春日:佐藤浩市(磯島秀一 役)にいかないわけね。

タツオ:いやいや、待って待って、このおじさん一つも悪いこと言ってないよ。しかも子どものこともちゃんと信じてるし、みたいな。なんかこういうのが社会から面倒くさいものとして排斥されていくっていうものを、ああ、山田太一は当時からすくい取ってたんだなと思うと、自分がおじさんになってしまったなというのをひしひしと。一つも間違ったこと言ってねえよ!全部正しいよこの人!

宮地:キュートさがあるからいいですね、鶴田浩二さんは。

タツオ:だから鶴田浩二は、まだ「ツンデレ」って言葉が無かった時代の人だから、味わい方が八千草薫とかも分からないわけですよ。教えてやりたい「ツンデレ」の魅力を!

春日:ゴリゴリのツンデレですよ。

タツオ:「籍を抜かないというのは、そういうことだと思ってましたけど」って、八千草薫もちょっとツンデレ入っていて。二人がツンデレだから、見ててヤキモキしちゃうんですよ!完全に山田太一の術中です!
 僕は、これだけプロ意識高く持ってる旦那さんを支えることに、何の不満があるの?と。八千草さんに僕が代わりに説教しに行くくらいの感じで!このドラマ、全力で、満面の笑みで楽しんじゃいました。

宮地:僕は山田太一さんが凄く好きなんですよ。倉本聰さん、向田邦子さんとかとよく同時に語られるんですけど、申し訳ないですけど(山田太一が)ナンバー1です。最近「岸辺のアルバム」がやっとDVDになったんですよね。それでもう一回借りに行って、個人的に見直したくらいで。でも、「シャツの店」は見たことなかったんです。なので、めちゃくちゃ楽しく見ちゃいました。他にも好きな作品がいっぱいあります。「終りに見た街」とかもすごく好きで。木下恵介さんとかと同じニュアンスを持っていたりして・・・

春日:弟子ですからね。

宮地:自分なりに山田太一さんはこういう作家なのかな?というのがあって、ちょっと真面目な言い方になりますけど、世の中にある問題、例えば少年がナイフで人を刺したとか(「ナイフの行方」)。ああいう問題が起きた時に、それを“家庭”っていう鍋の中にぶち込んで解決しよう、一緒に煮てみよう、そしたら絶対解決するっていうふうにして、ガッと強火で(調理する)。適当な話ですが、例えばISILというイスラムのグループがいて、これをどう解決しようかとなった時に、難しい政治的なことは言わないで、大学生のお兄ちゃんがちょっとひきこもりをしていて、
「僕、ISILに入ろうと思ってるんだ」っていう一言目から始めて、
「お前、テレビのあれだろ?」
「うん、そう。入ろうと思う」
「入るって何さ」
っていう感じで、実際それを解決していっちゃうと思うんですよね。
「だって僕、日本でやることないよ。あそこに行くと僕の余った力を発揮できそうなんだ」
「でもお前ISILのこと知ってるのか」
「ネットで調べた」
「ネット!?」
みたいな。
 ちょっと笑えるじゃないですか。実際見ているこちらも、それを笑いながら見てるんだけど、その男の子がどこか自分が役に立ちたいと思っている気持ちとかが、どんどん炙り出されてきて。

タツオ:そう、全部を家族という鍋に入れている感じが。

宮地:最近の山田さんの作品を遡って見ちゃっていたからかもしれないんですけど、家庭というものはどんな悪い人間でも直していく自浄作用みたいなものがあって、その自浄作用が家族なんじゃないかと。ゆっくりゆっくり対話していけば、絶対に殺人者でも良い人間になるという確信があるというか。
 「大人だって迷ってるんだ!」というせりふとかも、意外と山田作品では聞くじゃないですか。今回もそうなんですけど“迷っている大人”としてドンと出てくると、「ああブレてる、僕は間違えていない」と、それがまた山田さんの自浄作用みたいな感じがして嬉しくなっちゃうんですよね。

春日:仕事を成し遂げた男ですらブレるし、迷うし、困ってるんだなということですもんね。しかもそれを鶴田浩二みたいな芯の通った男が演じているということが、凄くメタ的でもあるしね。

タツオ:萌えキャラですよね~。ギャップですよ。

春日:あとは受けっぷりとしては平田満(里見昭夫 役)の名人芸。ほぼ「蒲田行進曲」のヤスそのものと言ってもいいくらいに、困った上役に文句を言いながらくっついて行くというこの・・・

タツオ:「もうその手には乗りませんよ!」って言いながら乗っちゃうという感じ(笑)

放談風景2

春日:「ずるいんだから~」って言いながらもね、あの感じ。だからみんなツンデレというか、みんな好き合っているのに好きと言えない感じというのがね。佐藤浩市も多分、親父のことを好きなんだろうし、みんなそうなんだけど、それが上手く表現出来ないもどかしさという。

宮地:でも大体、家庭の中で喋っている、喫茶店の中で喋っているとか、ダイアログが基本になる感じなのに、飽きないんですよね。

春日:もう鶴田浩二の皺を見ているだけで十分な何かがあるというか。やはり人生を背負ってそこにいるというふうになっちゃっているから、デコレーションというか、今のドラマみたいにいろんな仕掛けをする必要がないくらい、そこに鶴田浩二がいればドラマを背負っているような気がするんですよね。

タツオ:例えば平田満を引き止めるというときに、現代劇だと「行くな」って言っちゃうんですよね。でも「行くな」と一言も言わずにこのツンデレおじさんがいろんな工作をして彼を留めようとする、駆け引きがそこにあって、そこで実際に出てきている言葉の真意というものを視聴者はすぐに理解できる。そこに深みが出てくるので、人間と関係性が、立体的に浮かび上がってくるわけです。この点でも、やはり最近のドラマって全部自分で言っちゃっているなって思いました。

春日:過剰なんですよね。

宮地:僕も久しぶりに見て、山田さんのせりふってやっぱり良いなと思うのって、やはりドラマになった瞬間に、自分なんかもよく分かるんですけど、「ドラマ的なせりふを自動的に手が書いてしまう」という瞬間がたくさんあって、例えばさっきの話だったら、「何で帰るんだ、俺を置いていくのか」みたいになっちゃうせりふを、山田さんの場合だったら「俺を置いていっていいのか?」となる。

タツオ:ああ~そうだそうだ!

宮地:「こんな俺を夜更けに置いていっていいのか?お前はそれで平気なのか?」、「平気って何がですか?」みたいになっちゃう。自問自答のやり方なんかが一つひとつちゃんと乗っているんですよね。「行かないで」って言わないで、それがやはり上手いな~と。

春日:そこが凄くリアルですよね。こういう面倒くさいおじいさんっているよな、と。これって多分、鶴田浩二に当て書きしている感じがしますよね。鶴田浩二ってこういうこと言いそうだよな、って。

宮地:そして言わせたらまた面白い、みたいな。

春日:地の鶴田浩二に近い役柄という気がするんですよ。山田太一と鶴田浩二のコンビは、この前に「男たちの旅路」を何年もやっていて、鶴田浩二という人のパーソナリティーは山田太一も知り尽くしている。「男たちの旅路」と同じ座組みでもあるから、そういう意味では鶴田浩二という素材を知り尽くした中でここに来ている感じがする。
 「男たちの旅路」は警備員の話で、いろんなミステリーがあったり、外側に付いているものがあったけど、今度はそういうものを取っ払って、素材で出してみてどこまでやれるのかという感じがします。僕は映画史の研究家としてはもちろん、個人的にも鶴田浩二のことも好きでその後の作品もいろいろ見ていく中で感動したのは、鶴田浩二ほど歴史をたどった役者はいないこと。三船敏郎にしろ、萬屋錦之介にしろ、ほぼひと通りふた通りくらいで、あるいは仲代達矢さんのようにいろんな役をやっていく人もいるけど、鶴田浩二って時期がはっきり分かれている。最初は松竹のアイドルというか、二枚目ハンサムスターで売り出して、それがしばらく低迷して東宝に行って岡本喜八監督の映画に出たりしていて、なかなか上手くいかないときに東映に移ってヤクザ映画で再び大ブレイクする。今度はヤクザ映画で上手くいかなくなってきたときに、近藤晋プロデューサーと山田太一に見出されて「男たちの旅路」に出て、そこで今度は今まで背負っていたある種の情念というのが、世の中に通じなくなってくる。それはヤクザ映画でもそうでしたけど、本格的に通じなくなってきて、それに対して以前はドスで戦ってきたのが、今度は若者に「これでいいのか」と説教をする役柄になってきて、今度はその説教すら通じない時代になってきて、ただ縁側でぐちぐち言うというふうになってくる。“時代遅れの鶴田浩二”というキャラは絶えず一貫しているものの、そこがどんどん時代から乖離していくところを演じ続けている。しかも時代ごとに役柄も変えていってるんです。二枚目がヤクザになり、それから今度は警備員になり、最終的には普通のおじいさんになってしまう。
 こういうふうに演技を変遷していくというところが、時期ごとに全然違う顔になっていくというのが鶴田浩二の凄いところなんだなというのが、今回改めて思いました。

《トーク完全版の音源をアップ!》

※この後は井川比佐志、美保純の魅力や山田ドラマにおける主婦像などについて語り合っています。続きはYouTubeで公開中の完全版音源でどうぞ。

次回は10/2(金)UP、テーマは『シャツの店(後半)』です。お楽しみに!

【プロフィール&近況】

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春日太一

■プロフィール

1977年東京都生まれ。映画史、時代劇研究家。関係者40名超のインタビューを収めた豪華決定版「文藝別冊 五社英雄-極彩色のエンターテイナー(河出書房新社)」ほか著書多数。最新刊「役者は一日にしてならず(小学館)」、「時代劇は死なず!完全版:京都太秦の「職人」たち(河出文庫)」が好評発売中。

近況

今年の夏はエアコンをフル稼働でした。

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サンキュータツオ

■プロフィール

1976年東京都生まれ。漫才コンビ「米粒写経」のツッコミ担当。博識を生かした落語関係、学術論文の執筆などのほか、一橋大学の非常勤講師を務める。イラストやアニメ、映画への造詣も深く、幅広く活躍。定期落語会「渋谷らくご」に出演中。研究者たちの大まじめな珍論文を、芸人の嗅覚で突っ込みながら解説する著書「ヘンな論文」(角川学芸出版)が好評発売中。

近況

福岡でいちばんおいしかったのは、水炊きでした。スープを持って帰りそうになった。

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宮地 昌幸

■プロフィール

1976年神奈川県生まれ。アニメーション監督・演出家。宮崎駿監督の主催した「東小金井村塾」で演出を学び、『千と千尋の神隠し』の監督助手に抜擢される。その後、富野由悠季監督作品に携わる。近年の監督作に「亡念のザムド」、『伏 鉄砲娘の捕物帳』など。

近況

山田太一先生は大好き過ぎて。空也上人像を観に行った程です。