「第11回田辺・弁慶映画祭」受賞者ら)
「第11回田辺・弁慶映画祭」受賞者ら

11月10~12日の3日間にわたり、和歌山県田辺市の紀南文化会館で「第11回田辺・弁慶映画祭」が行われた。沖田修一監督、瀬田なつき監督ら、過去のコンペティション部門入選・入賞監督が、その後に商業デビューを果たすなど、若手映画監督の登竜門として知られる同映画祭は毎年、若手映画監督を対象としたコンペティションを実施。今年は全国から147本の応募があり、その中から予備審査を通過した9本の入選作品を映画祭で上映。本審査を経て、最終日となる13日に各賞が発表された。

グランプリに選ばれた『赤色彗星倶楽部』の撮影・共同編集の渡邊雅紀さん
グランプリに選ばれた『赤色彗星倶楽部』の撮影・共同編集の渡邊雅紀さん
『赤色彗星倶楽部』のグランプリ獲得に涙を見せるヒロインの手島実優さん
『赤色彗星倶楽部』のグランプリ獲得に涙を見せるヒロインの手島実優さん

グランプリに選ばれたのは、早稲田大学映画研究会が製作した武井佑吏監督の『赤色彗星倶楽部』。数十年に一度観測される赤色彗星が到来する街にある高校の天文学部を舞台に、みずみずしくもせつない青春模様を鮮烈な映像を交えて描き出した青春映画だ。期間中、残念ながら武井監督は仕事の都合により映画祭への参加はかなわなかったが、代わりに撮影・共同編集を担当した渡邊雅紀さん、ヒロインを務めた手島実優さんも来場。授賞式で喜びのコメントを寄せた。

グランプリの名前を呼ばれた渡邊さんは驚きを隠せない様子で「今日は武井が来られなくてすみません…。まさか(グランプリを)取れるとは思っていなかったので、何も(言うことを)準備していなくて…。何も言えないです」とコメントするのが精いっぱい。

手島さんも涙ぐみながら、「わたしも賞はないかなと思っていたところなので。名前を呼ばれて、ウワーッと言ってしまいました。今回、初めて田辺・弁慶映画祭に来させていただいて、3日間本当に楽しかったです。グランプリをいただいてうれしかったというのもありますけど、スタッフの皆さんや田辺に住んでいる方にも本当に親切にしていただいて。街の皆さんの力でできている映画祭だったなと思いました。故郷に戻ったら、田辺はいいところだったとたくさん言います。ありがとうございます」と感謝の言葉を述べた。

男優賞を獲得したルー大柴主演の『戻る場所はもうない』のメガホンをとった笹井歳春監督
男優賞を獲得したルー大柴主演の『戻る場所はもうない』のメガホンをとった笹井歳春監督
女優賞を獲得した『みつこと宇宙こぶ』主演の14歳・小松未来さん
女優賞を獲得した『みつこと宇宙こぶ』主演の14歳・小松未来さん

一方、男優賞を獲得したのは笹井歳春監督の『戻る場所はもうない』に主演した、タレントで俳優のルー大柴。スケジュールの都合で式に参加できなかった大柴の代わりに登壇した笹井監督は「この映画自体、脚本を作る前からルー大柴さんで映画を撮りたいと思って作った作品。ルーさんが映画に出たらどうやって魅力を出せるのかということを考えながら作ったので、ものすごくうれしいです。ルーさんにも伝えます」と喜びのコメントを寄せた。そして女優賞には竹内里紗監督の『みつこと宇宙こぶ』に出演した14歳・小松未来さんが選ばれた。

特別審査員を務めた深田晃司監督は男優賞に輝いたルー大柴について「正直、キャリアのある方なので男優賞に選ぶかどうか。議論は紛糾しました。しかし、最終的には9本の出演作で素晴らしいパフォーマンスをしたのはルーさんであろうということで決まりました。アルツハイマーの妹への思いと、罪と罰との間で葛藤する姿を、抑制された、リアルな、そこにいる人のように演じたその演技力は卓越したものがあり、その存在感とともに、後進の俳優にとっても指針となる演技だったと思います」とコメント。

さらに女優賞の小松未来さんについては「思春期の女の子の揺れ動く気持ちを、監督の演技指導もちゃんと効いていたとは思いますが、演技勘の良さを実感しました。必ずしもリアルとは違う、監督の独特のリズム、身体の表現をちゃんと、確実に完成させる。その演技力は非常に今後を期待させるものだと思いました。今後も映画に出続けていただければ」と、その将来性に期待を寄せた。その他、森田博之監督の『ラストラブレター(長尺版)』がキネマイスター賞、映画.com賞に、そして加藤悦生監督の『三尺魂』が観客賞にそれぞれ輝いた。

『おじいちゃん、死んじゃったって。』の森ガキ侑大監督、主演の岸井ゆきの(写真左より)
『おじいちゃん、死んじゃったって。』の森ガキ侑大監督、主演の岸井ゆきの(写真左より)

田辺・弁慶映画祭では、インディーズ作品コンペティションのほかにも、幅広い年代の市民が楽しめるような話題作を多数、上映している。11日には、数多くの大ヒットCMを手がけてきた俊英・森ガキ侑大監督の初長編映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』を特別招待作品として上映。祖父の死をきっかけに、久しぶりに集まった家族たちの悲喜こもごもを描き出した本作を上映した後には、森ガキ監督と、主演の岸井ゆきのによる舞台あいさつも行われた。

「ここ最近、日本映画でオリジナル作品を作るのは難しいと言われていますが、自分が長編初デビューをするときにはオリジナルでやりたいと思っていました。7年前くらいに、(原作で)脚本の山﨑佐保子さんと出会って。ホンを読んだら泣いちゃったんです。自分のおばあちゃんとリンクしてしまって。これは老若男女に響く普遍的な物語だと思いました。もともと僕は、老若男女の気持ちを揺さぶるような普遍的な物語を作りたいと思ったので、プロデューサーと頑張ってお金を集めた、ということです」と森ガキ監督は述懐。

一方、「この作品に出られて良かった」と語る岸井も、「この作品で大事なことを教えてもらいましたし。森ガキ組のチーム全体が、俳優部をいやすくしてくれるような空気だったので、こんなぜいたくなことはないなと思いました」とコメント。和歌山・紀州については「梅の印象があります。先週までずっと舞台をやっていたんですが、1幕と2幕の間でいつも紀州の梅をいっぱい食べていました。ちょうど今は身体が梅でできているくらいです」と笑ってみせた。

『36.8℃ サンジュウロクドハチブ』で11年ぶりのメガホンをとった安田真奈監督
『36.8℃ サンジュウロクドハチブ』で11年ぶりのメガホンをとった安田真奈監督

12日には沢田研二、上野樹里が出演する『幸福のスイッチ』の安田真奈監督が、11年ぶりにメガホンをとった『36.8℃ サンジュウロクドハチブ』をプレミア上映。兵庫県の加古川市を舞台に、みずみずしい高校生たちの日常を豊かな食を交えて描いたオリジナルストーリーとなる。

前作『幸福のスイッチ』は田辺ロケを敢行したこともあり、「観ていただいて感激です」と晴れやかな顔をする安田監督に、客席からは「おかえり!」との声が送られた。主演を務める堀田真由は、NHK連続テレビ小説「わろてんか」でヒロインの妹りん役を演じる注目株。安田監督も「堀田さんは本当にすごいんです。(セリフが多い)主役なのにミスがない。聞こえにくくて録り直すということはありませんでした」と絶賛。「すごく劇的なことがある映画ではないですが、たまにはホッコリした作品もいいかなと思いますんで、ぜひ口コミをお願いします」と会場に呼びかけた。

【取材・文/壬生智裕】

2017年11月14日 配信