シナリオ大賞入賞者(左からグランプリの緒方苑さん、準グランプリの松本稔さん、審査員奨励賞の村口知巳さん)
シナリオ大賞入賞者(左からグランプリの緒方苑さん、準グランプリの松本稔さん、審査員奨励賞の村口知巳さん)

北海道函館市で1995年より開催されてきた「函館港イルミナシオン映画祭」。23回目となった今年は12月1日から3日まで、3日間にわたって開催された。函館といえば、異国情緒あふれる景観で知られる国内有数の観光地であるが、それだけに本映画祭の会場も、函館の観光名所である金森赤レンガ倉庫内にある金森ホール、数々の映画のロケ地にも使用されてきた、レトロな雰囲気が魅力の函館市公民館、そしてミシュランにも選ばれた夜景が見下ろせる函館山山頂のクレモナホールと趣深い場所がそろう。

同映画祭のメインプログラムは、函館の街から映画およびその人材を発掘・発信するべく、1996年度より設けられたシナリオ大賞。若手脚本家の登竜門として知られる同賞からは、『パコダテ人』『オー・ド・ヴィ』『狼少女』『うた魂♪』『おと・な・り』『函館珈琲』など、これまでに長編・短編合わせて11本のシナリオが映画化、映像化されてきた。

雪が降り続ける中で開会式は行われた
雪が降り続ける中で開会式は行われた
金森赤レンガ倉庫内にある金森ホール
金森赤レンガ倉庫内にある金森ホール

今年の開会式は、しんしんと雪が降り続ける中、函館の観光名所である金森赤レンガ倉庫内にある金森ホールで実施。早速、シナリオ大賞の各部門が発表された。作家の荒俣宏、映画監督の大森一樹、プロデューサーの河井信哉ら、3名の選考委員による厳正な審査の結果、今年の函館市長賞(グランプリ)には、緒方苑さんの「夢の続きを空でみる」が輝いた。

ステージに立った緒方さんは「函館には3年前に家族旅行で来させていただいて。美しい街だな、この街で生まれて育ったらすごくしあわせだろうなと思っていました。ですから、この美しい街を舞台にした賞をいただいて本当に光栄です。以前に来た時は夏でしたが、冬の函館は白くて、本当にキレイだなと思いました」と感激のコメントを述べた。また、この日は準グランプリ(松本稔さんの「函館ハンチング」)、審査員奨励賞(村口知巳さんの「雪のした」)も合わせて発表された。

土屋太鳳
『嘘八百』プレミア上映に来場した脚本の足立紳、監督の武正晴、脚本の今井雅子(写真左から)

そして授賞式に続いては、中井貴一と佐々木蔵之介がダブル主演を務める映画祭オープニング作品『嘘八百』を上映。国内の映画賞を多数受賞した『百円の恋』の武正晴監督、脚本家の足立紳が再タッグを果たした作品で、千利休の幻の茶器をめぐるだまし合いを描いたコメディーとなる。

本作は武・足立のコンビに、『パコダテ人』『子ぎつねヘレン』の脚本などで知られる今井雅子も共同脚本として参加。『百円の恋』以前から構想はあったそうで、武監督も「ようやく映画化となりましたが、やはり時間がかかりますよね。それまでに今回の(映画に出てくる)骨董(こっとう)のように、焼く前に消えていった(企画段階での)作品がたくさんありました」としみじみ。

さらに3人の共同作業について「シナリオにいくまでに、3人で喫茶店に集まってウダウダと。どういう話にすればいいんだと話し合う機会が長かった」と足立が切り出すと、武監督も「ああいうダメ男のキャラクター設定は僕たちの得意なところ。真面目にいい加減に生きている人のエッセンスを取り入れつつ、最後は学芸員の方から聞いた骨董に関する具体的な記述を何回も付け加えて。最後の最後まで書き直した、という感じです」とその制作の経緯を説明した。

そんな流れから足立の脚本作『百円の恋』映画祭のシナリオ大賞で落とされてしまったという話に。「見る目がなくて失礼しました」というスタッフの謝罪に、武監督が「映画ってそんなものですよ。ベストがワーストになることもあるし」とフォローするも、足立が「実は去年上映された『お盆の弟』も落選だったんです」と付け加え、会場を笑いに包んだ。

函館は映画のロケ地としてもよく使われる
函館は映画のロケ地としてもよく使われる
クレモナホールへはロープウエーで移動
クレモナホールへはロープウエーで移動

映画祭2日目となる12月2日には、函館山山頂のクレモナホールで、テレビ時代劇初主演となる片岡愛之助主演『鬼平外伝最終章「四度目の女房」』が上映された。池波正太郎の代表作「鬼平犯科帳」外伝として、盗賊を主人公に江戸の闇社会を描いた本作。

主人公は世間を欺くために女房をめとっては、お勤めが終わると姿を消して、ということを繰り返してきた盗賊。しかし彼は、4度目の女房にだけは特別な感情を抱いてしまい、心乱れるさまを描き出す。撮影当時87歳の名匠・井上昭監督が描き出す、江戸の闇社会に引き裂かれた男女の切ない情愛模様に、観客もすっかりのめり込んでいたようだった。

函館市公民館でのシンポジウム(左より脚本家の今井雅子、山崎佐保子、監督・脚本家・作家の澤田サンダー)
函館市公民館でのシンポジウム(左より脚本家の今井雅子、山崎佐保子、監督・脚本家・作家の澤田サンダー)

一方、函館市公民館では、1999年に同映画祭のシナリオ大賞で準グランプリを獲得した今井雅子のシナリオを映画化した宮﨑あおい主演作『パコダテ人』を上映。上映後には、朝の連続テレビ小説『てっぱん』なども手がける今井、そして『おじいちゃん、死んじゃったって。』で注目を集める山崎佐保子、『ひかりのたび』の澤田サンダーというシナリオ大賞入賞者3名によるシンポジウムが実施された。

『おじいちゃん、死んじゃったって。』の舞台あいさつに立つ脚本家・山崎佐保子
『おじいちゃん、死んじゃったって。』の舞台あいさつに立つ脚本家・山崎佐保子

最終日となる12月3日。函館山山頂クレモナホールではミュージシャンあがた森魚の監督作『アガタカメラ』を上映。上映後の舞台あいさつで、あがた監督は「僕は来年70歳になるけど、70の僕を凝縮した映画になった。この映画が過不足なく、僕自身なんじゃないかなと思います」と誇らしげな顔を見せた。

そしてクロージング作品として、『おじいちゃん、死んじゃったって。』を上映。原作・脚本を務めた山崎は、2011年のシナリオ大賞で函館市長賞(グランプリ)を獲得。今回の上映が凱旋(がいせん)上映となり「私がグランプリを取ったのは6年前ですが、まさか6年後にここで自分の作品を観ることができるとは思っていなかったので感無量です」と思いをはせた。

閉会式であいさつをする映画祭ディレクターのあがた森魚
閉会式であいさつをする映画祭ディレクターのあがた森魚

クロージング上映が終わると、続いて閉会式に。まずは今年から新設されたオーディエンス・アワード(観客賞)を発表。観客のアンケートの集計の結果、選ばれたのは五藤利弘監督の『レミングスの夏』。突如ステージに呼ばれた五島監督は「ひとごとのように聞いていたので、まさかという思いでビックリしました。素晴らしい作品を見た後なので、申し訳ない気持ちもありますが、僕の作品をまだ観ていない方はぜひご覧ください」とスピーチを行った。

そして最後のあいさつを行ったのは映画祭ディレクターのあがた森魚。「『レミングスの夏』が一番人気ということで。今年初めて観客賞を行ったわけですが、これは映画を観た人の賞なのでいいなと思いました。今年は函館らしい冬を体感できましたし、いくつかの新しい節目を感じています。この映画祭を23回、分かち合えてこれたことをうれしく思います。また来年お会いしましょう!」とあいさつし、今年の映画祭を締めくくった。

【取材・文/壬生智裕】

2017年12月05日 配信