『パーフェクト・レボリューション』の松本准平監督、リリー・フランキー(写真左より)
『パーフェクト・レボリューション』の松本准平監督、リリー・フランキー(写真左より)

秋田県横手市十文字で1992年にスタートした「あきた十文字映画祭」。地元のスタッフが企画から運営までを行う同映画祭は、今年で27回目。毎回、多彩なゲストを招いて、秋田未公開となる話題の邦画作品を中心に、幅広い作品の上映を行っている市民映画祭である。継続することが難しいといわれる地方映画祭の中でも、ここまで映画祭が続いてるということは特筆すべきことだと言える。

来場者を迎えてくれる味わい深い手描きの看板の数々
来場者を迎えてくれる味わい深い手描きの看板の数々
大雪が降った2、3日目にも多くの人が足を運んだ
大雪が降った2、3日目にも多くの人が足を運んだ

今年は2月10日から12日までの3日間開催。会場へは、昔の映画館などに掲示されていた手描きの看板が来場者を迎えてくれる。この看板は、地元で看板店を営む佐々木喜代治氏が手掛けるもので、味わい深い看板は本映画祭の名物として親しまれている。

初日の上映作品は『草原に黄色い花を見つける』『しゃぼん玉』『武曲 MUKOKU』『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY』の4本。ノスタルジックな味わいのベトナム映画から、期待の新人によるエッジの効いた衝撃作までそのジャンルは幅広く、多くの観客が来場し、映画を楽しんだ。

『愛しのノラ~幸せのめぐり逢い~』の田尻裕司監督、水澤紳吾、大島葉子、速水今日子(写真左より)
『愛しのノラ~幸せのめぐり逢い~』の田尻裕司監督、水澤紳吾、大島葉子、速水今日子(写真左より)

そして2日目には大雪が降り、辺りは一面の雪景色となった。それでも会場には多くの観客が集まり、ゲストトーク付きの上映を楽しんだ。『愛しのノラ~幸せのめぐり逢い~』の上映には、田尻裕司監督、主演の水澤紳吾、そして大島葉子、速水今日子の4名がゲストに登壇。

文豪・内田百閒の「ノラや」からインスパイアされたという本作は、夫婦と猫のささやかな日常を、愛に溢れた目線でつづったドラマとなる。『ぼっちゃん』や『怒り』、『羊の木』など、狂気に満ちた役柄を演じることの多い個性派俳優・水澤が、ここでは一転。猫を溺愛するシナリオライターを好演している。

上映後の舞台あいさつに立った田尻監督は「水澤君は変わった役が多いから、ここでは怖い感じは消して、クセのない芝居をしてほしかった」と述懐。水澤も「田尻監督の優しさがあふれている映画となった」と満足げな顔を見せた。そして、主題歌として遠藤賢司の名曲「カレーライス」が流れることについて田尻監督は「遠藤さんが生きていらした時に交渉しました。僕は、水澤君のキャラクターを『ノラや』というよりは、最後に流れる『カレーライス』のように考えていたんです」と振り返った。

それに対して速水が「初日に観に行ったんですけど、遠藤さんが亡くなった後だったから。(映画の最後に)「カレーライス」が流れるんだな、と思ったら不覚にも泣いてしまって。ホンワカとしたいい映画だなと思いました」としみじみと付け加えた。

続いて上映されたのは篠崎誠監督の『SHARING』。ゲストには、昨年に続き、2年連続の十文字映画祭参加となった女優の山田キヌヲ、そして木村知貴、共同脚本・助監督を務めた酒井善三も来場。震災後の心の問題に正面から挑んだ本作に挑むにあたり、山田は「お話をいただいた時は、ちょうど役者ってなんだろうなと思っていた時だったので。これは気合を入れてやらないとダメになるなと思いました」と述懐。本作に懸ける意気込みを明かした。

リリー・フランキーと松本准平監督のサイン会にも多くのファンが並んだ
リリー・フランキーと松本准平監督のサイン会にも多くのファンが並んだ

そして最終日も大雪模様となったが、会場には大勢の観客が来場した。まずは『ヨコハマメリー』の中村高寛監督の11年ぶりとなる新作『禅と骨』を上映。プロデューサーの林海像とともに舞台あいさつに立った中村監督は、「次の映画は、こんなに長くかからないテーマにしたい。11年ぶりということにはせずに、3年ぶり、4年ぶりという形でまたこの映画祭に来たいと思います」とコメントし、会場を沸かせた。

続いて重度の身体障がいがあるクマと人格障害を抱えたミツによるパワフルなラブストーリー『パーフェクト・レボリューション』の松本准平監督、主演のリリー・フランキーが来場。リリーが「秋田県は美人の街だから、(ヒロインの)清野菜名ちゃんみたいな美人をわざわざ連れてくる必要がなくて。代わりにわれわれが来ました」と軽妙にあいさつした。

さらに「この映画は、十文字とシカゴの映画祭にしか呼ばれていない。だからここは民度の高い映画祭ですね」とリリーは笑顔を見せた。また「菜名ちゃんに(各映画賞の)新人賞をとってほしかった。今から十文字映画祭で個人賞を設置して、清野菜名に最優秀新人賞を与えてください」と清野の芝居を絶賛する一幕も。最後まで笑いの絶えないトークショーとなった。

その次は数々の映画賞で高い評価を受ける『幼な子われらに生まれ』を上映。上映後のトークショーには、三島有紀子監督と、本作脚本家であり、本映画祭顧問でもある荒井晴彦が来場。「もともと荒井さんの映画が好きで。いつか荒井さんが書いたものを撮れたらと思い、自分がやりたい企画を持って荒井さんに会いに行きました。そうしたら、そんなのお前が書けばいいじゃんと言われ、ショックを受けて…」と三島監督。

「それでも朝の8時くらいまで飲んでいて。そろそろ帰りましょうかと言ったら、ちょっとした静寂があって。『読んでほしい脚本があるんだよな』と。それがこの映画の初校だったんです」と続けて語る三島監督に、「あれは単なる在庫整理」と軽口をたたく荒井。そんな二人のやりとりに会場は大いに盛り上がりを見せた。

『AMY SAID エイミーセッド』の村本大志監督、三浦誠己(写真左より)
『AMY SAID エイミーセッド』の村本大志監督、三浦誠己(写真左より)

そして映画祭最後の上映作品は、人気個性派俳優が数多く所属するマネジメント会社ディケイドの設立25周年を記念して製作された群像劇『AMY SAID エイミーセッド』。ゲストトークには村本大志監督、主演の三浦誠己が来場した。

「14年前に『IKKA:一和(いっか)』 という映画で十文字映画祭に来ました。これは僕にとって3本目の映画でした。『AMY SAID エイミーセッド』は99本目の出演作品です。あれから96本の映画に出ていたんですね。そして100本目は、去年公開した映画『火花』でした」と語る三浦に会場からは大きな拍手が送られた。

一方の村本監督は19年ぶりのあきた十文字映画祭への参加となる。「相米(慎二)監督の助監督をしていた関係で、一本撮らせてやろうかとなり、オムニバスの1本を撮らせていただきました。確かその時は相米さんの『魚影の群れ』がかかっていて。相米さんが若い監督を映画祭に連れてきてくださった。思い出の映画祭ですね。最初に映画祭というものに参加させていただいたのはこちらの映画祭だったので」と語る村本監督に、三浦も「僕もこの映画祭が初めての映画祭です」と誇らしげにコメント。映画祭最後の上映を盛り上げた。

【取材・文/壬生智裕】

2018年2月14日 配信