東京国際映画祭の作品選定ディレクター・矢田部吉彦さん、PFFぴあフィルムフェスティバルのディレクター・荒木啓子さん、TAMA CINEMA FORUMのコーディネーター・渡辺和則さん、個性あふれる映画祭を牽引する3人が、日映シネマガだけに語った映画祭の知られざるエピソードをお届けする「映画祭放談~映画祭の深イイ話~」。驚きのぶっちゃけ話に続く第3回は、それぞれが考える映画祭の意義、そして映画祭を運営して感じる喜び、やりがいの話を交え、映画祭に興味を持つ方々へメッセージをいただきました。

最終回

「映画祭のアカルイミライ~でも、やるんだよ。なぜならそこに映画ファンがいるから」

放談風景1

--前回はさまざまな苦労話をお聞きしましたが、今回はこの仕事だからこそ得られる“喜び”を伺いたいと思います。

矢田部:大変なことはいろいろありますけど、やっぱり映画を観ることを仕事にできるなんて幸せだなって思いますよね。最大の喜びは、自分が見つけた新しい映画を次の誰かに発見してもらうことです。以前、大学でレクチャーした際に「まずは観に来てください」と言ったら、学生さんが本当に観に来てくれて「フランス映画を初めて観ましたが、こんなに面白いとは思わなかった」と話してくれたんです。こういう新たな観客が生まれる瞬間に、ものすごく喜びを感じますね。または自分が気に入って選んだ映画に後から配給がついたり、監督やプロデューサーが感激してくれたり、そういう場に居られる喜びは何物にも代え難いです。

荒木:観客の皆さんが喜んでくれることが何より嬉しいですよね。それとPFFで自主映画をやるもうひとつの大きなモチベーションは、「こういう若者がいっぱいいれば、日本の未来は明るいぞ」と感じられることです。

一同:おおーっ。

荒木:これは映画に限らない話ですけど、まったくアテのない孤独な状況の中で若者たちが何かを生み出そうとする行為って、とても崇高で大切なことだと思うんです。そんな人たちがいるから、この世界は楽しいんだと。彼らの映画を観てもらうには映画祭という形態がベストだと思うし、作品と観客がナマで触れ合う場の力を信じているから、今はオンライン配信という形式はまったく考えていません。それに200人の観客の中でひとりにしか響かないようなパーソナルな作品を上映できることも映画祭の醍醐味ですよね。決して数が多ければいいわけではない、人生には多様な価値観や多彩な選択肢があるんだと。その喜びや楽しさを伝えられるからこそ、映画祭をずっとやっていられるんだと思いますね。

--では渡辺さん、予算などが厳しい中で映画祭に関わり続けている理由は何ですか。

渡辺:僕は……打ち上げのときに飲む酒がうまいからですかね。

一同:(爆笑)

放談風景2

渡辺:うちの場合、実行委員のほかに“シネマ隊”というボランティア・スタッフがいて、映画祭運営に携わるのは総勢80人くらいなんですけど、打ち上げのときに全員が一堂に会して、飲みながらそれぞれがひと言しゃべるんです。それが面白くて盛り上がるし、こっちも感動しちゃうんですよ。学生からご高齢の方まで幅広い世代の市民が出会い、配給会社と交渉して映画作品を引っ張ってきたり、電話をかけてお金を集めたりする。そんな彼らの一生懸命な姿を見ると、自分も闘わなくちゃと思いますよね。それと、うちには今年で16回目になるTAMA NEW WAVEというコンペがあるんですけど、以前に賞を獲った深川栄洋監督や染谷将太君が、あちこちでこの映画祭のことをしゃべってくれて、僕らの大きな励みになっています。

--きっと皆さん、映画文化を担う使命感のようなものもお持ちですよね

矢田部:そうですね。このところ観客の平均年齢がどんどん高くなっていて、若い作り手と観客を応援しないと映画が終わってしまうという危機感があります。今の若い世代はあまり映画を観ませんが、映画嫌いな人はいないし、こっちが誘って実際に映画祭に来てもらうと「面白かった!」と大喜びしてくれたりする。若い人は打てば響くんですよ。つまり導くべき側の大人が悪い(笑)。

荒木:シニアの世代はもともと映画を観る習慣があるけど、若い人たちにはそれがないですからね。おまけに今の大学生はサボって映画を観に行けないほど、ガチガチに学校に縛られているんです。他人と違うことをしたら駄目っていう管理社会みたいな異常な状況は絶対変えたい。今、来場くださった方々に「ひとりで映画に行きたい気持ちはわかるけど、できるだけ人を誘って映画祭や映画館初体験者を増やしてほしい」と伝え続けています。

--最後になりますが、まだ映画祭に行ったことがない読者の皆さんに向けてメッセージをお願いします。

渡辺:ぜひ実行委員になってください、と言いたいですね。

--それは「一緒に映画祭を作ろう」という意味ですか?

渡辺:映画を観る側から観せる側になってみると、映画の見方が変わるんですよ。映画好きの仲間がワーワー言い合う場なので、自分の知らない映画と出会えて映画に対する幅が広がると思うんです。うちの実行委員は多摩市民だけではなく、小田原や浦安のような遠くから来ている人もいるんですよ。だから一緒にやりませんかと。残念ながら交通費は払えませんが(笑)。

--(笑)。荒木さん、矢田部さんもメッセージをお願いします。

荒木:自主映画って「ひとりよがり」とか「暗い」というイメージが根強く浸透しているんですが、実は「見せる」という意識の高い映画が多くてきっとびっくりしますよ! そして、10年後20年後の巨匠、の原点とも言える映画をリアルタイムで体験できるチャンス。ぜひ「最新映画をみる」気持ちで気楽に来場してほしいのですが、どうもPFFって、どんな映画をやっているのかイメージが湧きにくいらしい。映画に目覚めた人に是非みてもらいたい著名な映画の特集もやっていて、幅広いラインナップをご用意していますのでチェックしてみてください。

放談風景3

矢田部:東京国際映画祭は、言わば“映画のデパート”なんです。一昨年のうちの映画祭のチラシを見て愕然としたんですけど、何とそこには最先端のアート系映画である『アデル、ブルーは熱い色』の隣にアニメ映画の『ドキドキ!プリキュア』があった(笑)。これこそあらゆるジャンルの作品を網羅する東京国際映画祭を象徴していて、もしも『プリキュア』のファンが『アデル』を観たらどう思うのかって想像が膨らみますよね。映画を通して自分の世界を広げるために、まずは映画祭に足を運んでタイプのまったく違う2作品を観てほしいと思いますね。

――本日は貴重なお話、ありがとうございました。

■プロフィール■

yatabe

矢田部吉彦

■プロフィール

1966年フランス生まれ。銀行勤務、英仏駐在・留学を経て映画業界へ転職。映画配給・宣伝を手がける一方、ドキュメンタリー映画のプロデュースなどに携る。2002年から東京国際映画祭にスタッフとして参加。2004年から現在まで上映作品選定を担当している。2007年よりコンペティションのディレクターに就任。
(「東京国際映画祭」公式サイトはコチラ

araki

荒木啓子

■プロフィール

映像製作・宣伝などの仕事の後PFFに関わり「UK90ブリティッシュフィルムフェスティバル」から各国映画祭運営に参加。東南アジア映画祭(国際交流基金アセアン文化センター主催)のヤングシネマ部門プログラミングディレクターなどを経て、1992年にPFF総合ディレクターに就任。日本のインディペンデント映画を国内外に紹介することに力点を置く活動を続けている。
(「PFFぴあフィルムフェスティバル」公式サイトはコチラ

watanabe

渡辺和則

■プロフィール

1979年より東京都多摩市役所に勤務。公務に並行して1990年より市の公共施設を用いて市民主体の映画イベント”TAMA映画フォーラム”(現在のTAMA CINEMA FORUM)の立ち上げに尽力。市民と市役所双方を結ぶ存在として、同実行委員会コーディネーターとして活動している。
(「TAMA CINEMA FORUM」公式サイトはコチラ